君に落ちる7日間 5

                      

DAY5

 クリスマスのレース編みを、やめることにした。ううん、やになったわけじゃない。昨日まで、ちゃんと頑張ってた。編み上がった数も増えてきたし。昨日まではちゃんと完成させるつもりだった。
 っていうのも、垂坂さんが、メールで……メールに、『クリスマスってどうするの?』って書いてて……それで、特に用事もないし、かといって何もないって書くのがためらわれたから、その話を……ツリー飾りのことを、クリスマスに向けてちまちま編んでるってメールに返信したら、見てみたいって言ってくれたから。それで、頑張って、上手にできたのを1個、写真に撮って送ったら、妹さんにあげたいから欲しいって言ってくれて。こんな、素人の女の子が編んだもの、大事な妹さんになんて、きっと気を遣ってくれてるんだってわかったけど、嘘でもすごく嬉しくて。じゃあ、もっと真剣に編んで、もっと上手にできたのを2つプレゼント用にラッピングして、あげようと思って、ラッピング素材を買いに行くことにした。お店には、たまたま近かったから、ついでに前を通るだけのつもりだった。
 つもりだったけど、前を通ったら、また食べたくなった。好きなお店は、買わなくても見に行くだけなんてことも、たまにするんだけど、このお店は、少し遠回りだから、そうしょっちゅう行けるわけじゃない。それに、疲れて甘いものが無性に食べたくなってた。店内に知り合いがいたら、ちょっとためらったかもだったけど、誰も見当たらなかったし、だからレース糸の買い過ぎで金欠だったのに、誘惑に負けて、1個だけって、ふらふらって入ってしまった。ぽけっとショーケースのとこをうろついてたら、ところが急に垂坂さんがどこかから現れて、思わず「あ」って顔しちゃった。
 私を見つけた垂坂さんはちゃんと、いらっしゃいませって声をかけてくれて、油断してた分恥ずかしかったけど、嬉しさも倍あった。知り合いだから、割引してあげてって言ってるのが聞こえて、たった1個しか買わないのにそんなの申し訳なくて、大慌てで、いいですいいですって断って、ぴったりのお金を置いて逃げるように出ようとした。その時、羽鳥さんもお店に入って来て、あ! って言った。私もびっくりして、あ! って立ち止まった。
 買いに来てるって知られて、私はちょっと恥ずかしかっただけなんだけど、羽鳥さんはちらって向こう側を――垂坂さんのいる方を見て、それから、それから真剣な声でこう言ったの。

「荷央ちゃん、よく買いに来てるの?」

 足が震えたみたいになった。私はぶるぶる首を振って、滅多にこないって伝えたけど、羽鳥さんからちょっぴりぴりぴりした空気が出てる気がして、怖かった。私も、引け目を感じてたのかもしれない。そうだよね、まだ2回目だったけど、羽鳥さんに言わないで行くの、良くなかったのかもしれない。変な誤解を与えてたかも。そう思って、気まずくて、黙ってたら――後ろからすっと垂坂さんが来て、「はいお釣り!」ってにっこりされたから、空気が弾けたみたいだった。羽鳥さんと2人で立ち止まってたのが、びくっとなって緊張がとけて、その腕を急に垂坂さんにつかまれて、てのひらの上に、お金をそっと乗せられて、少しだけ触れた指先が氷みたいに冷たくて、息を呑んだ。私が「あの、お釣りは……」って言いかけたところで、垂坂さんは笑顔のまま「売上げ貢献ありがとう。また来てね」って言ってくれて、私、なんだか泣きそうになった。それを聞いて、羽鳥さんもちょっと緊張がとけたみたいに「そうだね」って優しく言ってくれたから、私はお辞儀して、そそくさとお店を出て帰った。
 助けてくれたんだ、ってわかった。垂坂さん、もしかしたら羽鳥さんの気持ち知ってる。そう思うと、その周りでじたばたしてる私なんか、すごく馬鹿みたいに見えるかもしれない。羽鳥さんのオマケの私なんて、なんて。だから、その後からずっと、すごく複雑な気分で、もらったお釣りも、また迷惑かけちゃったって、1人で部屋の中にこもった。ケーキの箱を前にして、小さく膝を抱えて。何もやる気が起きなくなった。夜になって、羽鳥さんからメールが来た。

『荷央ちゃん忘れてないと思うけど、私、垂坂さんのこと本気だからね。ちゃんと応援してね』

 見た瞬間、心臓が、ずきりってした。
 胸が痛い。苦しい。
 なんでこんなに、痛むんだろう。
 あげようと思っていたツリー飾りを見る。もしこれをあげてしまったら、また羽鳥さんに悪いかもしれない。
 思うと、編み物をする気も失せてしまって、毎晩毎晩なにをお祈りして編んでたのか、悲しくなって、急に、泣いてしまった。
 ずっとずっと1人で、泣いた。その後、買って来たラッピング材と、編んでいたのを全部、かぎ針も一緒に籠の中にしまいこんで、蓋をした。蓋をして、また泣いた。