君に落ちる7日間 1

                      

DAY1

 今日は、あっという間だった気がする。

 そう! 今日が、例の、先輩とそのお友達と4人で、会う日だった!

 羽鳥さんとその先輩はバイトのシフトが午前中までで、そのあと先輩の友達という人と私と合流して、軽くお昼を食べる約束ってことで、私としては、自分の分のご飯を食べたらすぐにでも帰る勢いで、待ち合わせに向かった。昨日は本当に緊張で、入試の時の前の晩みたいな気持ちで、大変だった。朝も、お腹はちっとも空かないし、お昼も何も食べられないような気がしてた。
 約束の時間の10分くらい前に、待ち合わせ場所のデパートの入り口前の、大きなツリー飾りのあるところでぼんやりしてた。あの時が人生で1番緊張してたんじゃないかと思う。
 ほどなく羽鳥さんたちが来てからは、まるで走り抜けたみたいな時間だった。私のすぐ横でずっと携帯を見ていた男性が、同じ約束してた人だってことに気づいた時はびっくりして、この人が友達だったんだってあたふたしたし。よく見たら、羽鳥さんはいつもよりも女の子らしい服装で、私はいつも通りの服装だったから、羽鳥さんが恥をかくかもしれないと、その時点でもうすでに申し訳なくなっちゃったし。でも先輩という人に慌てて頭をさげたら、何故だか相手もほっとしたような雰囲気で笑ってくれたの。それを見たとき、確かに、優しそうなほんわかした雰囲気の人で、笑うとほっぺが柔らかそうで、なんだか生クリームみたいって感じた。先輩の友達という人は逆で、すごくはきはきしてそうで、だけど性格がきつそうって感じとは違う人だったかな。
 その後も、怖い人たちじゃなさそうって多少は良かったと安心したのも束の間、羽鳥さんに『荷央ちゃんも先輩にすごい会ってみたかったんだよね』と聞いたことないような話をされて、しばらくはテンパってたと思う。
 言った覚えのないことであたふたして、ええととか、そうですね、とかなんだかよくわからないことをぶつぶつ呟いてしまって、思い返しても恥ずかしい。羽鳥さんが近づいてこなかったら、帰ってたかもしれないくらい。羽鳥さんがすごく喜んでたから、気持ちを辛うじて呑み込めたけど。
 とりあえず場所を移すことになり、冷や汗をかいて一番後ろをとぼとぼ歩いて、ついてった。
 適当にそこら辺のお店に入って、なんとなくあらためて自己紹介的なことをしたんだったかな。
 先輩さんは垂坂(たるさか)さんと言って、そのお友達さんは渋谷(しぶや)さんと言った。
 それからが、またびっくり。羽鳥さんはとても上機嫌で、先輩2人の関係を聞いては、上手に相づちを打ったり、じゃあ学校ではどうなんですかとかすぐ切り返したりとあれこれ喋ってくれたから、私は本当になにも喋らずに済むのかなって黙ってたはずが、油断してるといつの間にか話題をふられてて、

「荷央ちゃんは羽鳥さんと、同じ学校なんだっけ」
「荷央ちゃんは、ケーキとか嫌いなの? とにかくうちの店美味しいから。嫌いじゃなかったら、今度食べてみて」

 なんて、気づいたら、全員から荷央ちゃんなんて呼ばれてたんだよ……恥ずかしい…どうしよう…。でもね、不思議なの。初めて会った人たちなのに、あんまり嫌な気分はしない。たぶん垂坂さんの雰囲気がやわらかくて、渋谷さんはすごく場の仕切りが上手なせいだとは思う。
 私みたいな子も、いつの間にか話につり込まれてて、渋谷さんがわりとすぱっとした物言いなんだけど、垂坂さんがふわりとかぶせてくるのが聞いているだけで面白くって、気がついたら笑うくらいはできてた。まさに、渋谷さんが辛いぴりりとしたスパイスのようで、垂坂さんが軽く素晴らしく上手に仕上げたホイップクリームのような感覚で、垂坂さんが今日渋谷さんを連れて来た理由がなんとなくわかった。垂坂さんはどっちかっていうと、私と近い印象を受けたかな(本当に、どっちかって言うと! 本質は、全然違うと思う。もっとしっかりしてて、きちんとしてる感じ)。私がちゃんと返事できなくても、ゆっくり待っててくれて、じっくり聞いてくれる感じの人。
 ちょっとまずかったのは、羽鳥さんの話が、気がつくと、話上手な渋谷さんの質問に変わっちゃってるの、私が真面目に答えちゃってたこと。私ってばお馬鹿さんだから、聞かれるとテンパって慌てちゃって、考えるのに必死で、それに気づいたのがだいぶ経ってからで、しまった、って思ったときは、後の祭り。羽鳥さん、一応にこにことはしてたけど、きっと垂坂さんにたくさんたくさん話を聞いたり質問したりしたかったかもしれないのを、私が邪魔してたのかなあって、すごくごめんなさいって気持ち。本当に悪いことしちゃった。
 いろいろ聞いてて、垂坂さんは本当に真面目で、いい人で、羽鳥さんが好きっていうのもわかるような気がした。
 渋谷さんも、けして悪い人じゃないし、垂坂さんは聞いていた以上にいい人だったし、やっぱりいい人の周りには、いい人が集まるのかな。
 話を聞くばっかりで、翻弄されっぱなしの気もしたけど、今日は思ったより楽しくて、行って良かったのかなって思った。