君に落ちる7日間 ことのはじまり

                      

DAY0

 今日は、なかなかに寒い1日だった。まだ一番分厚いコートは着てないけど、手袋ははめて行った。学校の後、いつものように、お気に入りのケーキ屋さんの前も通ったし、今年は、レース編みのクリスマス飾りを作ろうと決めたから、毎晩ちょっとずつ、祈りをこめて頑張って編んでる続きもやった。だいたいいつもと同じはず。なのに、全然違う。まるっきりだめな気分。もうどうしていいかわからない。
 また、羽鳥(はとり)さんにお願いされて、断れなかった。どうしていつも私にお願いしてくるのかよくわからないけど、もしかしたら、同級生の中で1番頼みやすいと思っているのかもしれない。私って、本当に断るのが下手だし。おまけに、今回のはどう考えても、私がたぶん1番向いてなくて、私なんかよりいっぱい適任な子がいるのに、それでもお願いされるなんて、よっぽど私って“よっぽど”なんだと思う。『今度一緒にバイトの先輩とお茶しよう』だって。
 羽鳥さんは、ちょっと前から洋菓子店でアルバイトしてて、私はまだそこには行ったことない、少し離れたとこにあるお店だったけど、すごく美味しいらしい。羽鳥さんはお菓子のことになると、いつも「太る太る」って気にしてて、私なんかケーキのことになるとすぐに自分に甘くしちゃうから、偉いなあって思ってたはずが、結局洋菓子店でアルバイトするって聞いたときは、我慢のしすぎで我慢しきれなくなっちゃったのかもと納得したっけ。とにかく入ってしばらくしてから、すごくステキな先輩を見つけたんだって言ってたのは聞いてた。それで、その人とバイトの後にご飯かお茶をする約束をしてもらって、良かったねって思ってたら、それになぜか、私にも来てって言うのには、びっくりした。

「来てくれるよね? 先輩に言われて、友達1人連れてくることになっちゃったの。荷央(かお)ちゃん来てくれれば、先輩とバイトの後も会えるのに、丁度いい人がなかなか見つかんないから困ってるって、すごいヤバくない。先輩が学校のお友達連れてくるのに、私がバイトの人ってわけにもいかないし、そうなったらやっぱり、荷央ちゃんが1番かなって」

 そう言ってたけど、私は女子校でずっときたせいか、前々から、男の人と話すのもできないし、話しかけられても答えられないって言ってあるし、そんな、知らない人といきなり食べたり飲んだりなんて、もっとできないし、丁度いいなんてものじゃないほど、丁度悪いはずなんだけど。
 でも羽鳥さんは、その先輩のことがすごく好きで、私が断ったら、せっかくのチャンスが消えちゃうってそっちはそっちで困ってて、どうしたらいいのか余計にわからなくなっちゃって。
 よく考えたら、羽鳥さんともお茶を一緒にした経験もないような気がするのに、もっと知らない人と、何を話していいのかなんて、私にできることじゃないって今ならはっきりわかるんだけど……。

「荷央ちゃんなら私の気持ち、わかってくれるよね。そうだよね。すごいチャンスって、わかるよね」

って言われたら、その時は羽鳥さんに悪い気がしちゃったんだ……。
 たぶん、きっと、本当にその先輩が好きなんだよね。私は、今まで誰かを本気で好きになったことなんてないから、あんまりわからないけど――。
 えみちゃんとかいくちゃんとか、私みたいに目立たない話下手な人より、綺麗で、社交的な女の子の方がいいと思うんだけどな……とは言ってみたものの……あ、もしかして、そういう子たちじゃ、取られちゃうかもって心配なのかな?
 私が口ごもってたら、羽鳥さんは

「大丈夫だって。その先輩、本当にすごく優しいから」
「先輩の友達は知らないけど、先輩がいい人だから、きっと大丈夫」
「荷央ちゃんならきっと、誰とでもうまく付き合えるよ」
「なんなら荷央ちゃんは、ただ座って食べてるだけでもいいし」
「にこにこ笑ってるだけで荷央ちゃんいい感じだし」
「荷央ちゃんお願い、本当にお願い。うまくいったら、今度売れ残りのケーキいっぱいあげるから」

 とか、いっぱいいっぱい言ってて、すごくすごく断れないような雰囲気で。私がここで渋ったら、羽鳥さんの恋愛の邪魔をしているのかなって不安になったくらい、熱く語られちゃって。
 だんだん申し訳なくなって、ケーキを扱っているお店でアルバイトしている男性なら、ケーキを嫌いということもないし、優しい人なのかなとか、私のせいで羽鳥さんが困っている、とか一生懸命プラス思考に考えて、最終的に『ただ座っているだけでいいから』っていう言葉を信じる気持ちで、押し切られる形でOKしてしまった。今となっては、もう本当に、自分が恨めしい。やだ、やだ、行きたくない。どうしよう。だけど羽鳥さんは、ありがとうを連呼して、先輩との恋が成就したら売れ残りのケーキ沢山あげるねって、あっという間に携帯を持って返事しに行っちゃった。どんなにケーキが好きな私でも、そんな自分と引き換えにするほどじゃないってくらい、今回のお願いの厳しさはわかってたはずなのに、どうして言うことを聞いてしまったんだろう。
 その場は解放された気分だったけど、すぐに、その知らない男の人2人と会う日のことを考えて憂鬱になった。一番お気に入りのケーキ屋さんの前を通っても、全然気分が晴れなくて、可愛いショートケーキを見ても、気分が乗らなくて、さっきも気づいたら、編み目がずれてて、今日やったとこ全部ほどいて……。
 いったいどんな人たちが来るんだろう。何を話して、どんなふうにしたらいいのかな。どうして羽鳥さんは私なんかを誘ったりしたんだろう。私が場の雰囲気を悪くしてしまったら、羽鳥さんと先輩も気まずくなってしまうよね……。プレッシャーが重いよ。ああ、ほんと私ってバカバカ。
 今日はもうダメみたい。これからその先輩とかと会う日まで、毎日こんな気分が続くと思うと、怖い。ユウウツ