パーフェクトゲーム  おまけ


「なあリコ、ところでさ」
 敦之は気持ちのいいカフェで梨古と向き合っていた。涼しくなってきた頃。
 敦之は満足げに目の前の人を眺めた。ああ、今日も彼女はここにいる。
 梨古は、麻耶と再開した時に嫉妬している自分に気付いて、あの場から逃げたこと。遊ばれるだけの関係は嫌だと踏ん切りをつけるために、最後に思い切ってあんな行動に出たことを告げてくれた。だから敦之も自分の素直な気持ちを初めて告白した。不思議と恥じらいはなかった。
 こんな楽な関係を築けるのなら、もっと早くそうしてれば良かったと思わざるを得ないほど、梨古との恋愛は充実している。今度こそ梨古のどんなことでも知ろうと、敦之は梨古を質問攻めにしていた。もう梨古が1人暮らしをしていることも、どこに住んでいるかも、家族構成も聞いていた。ただ仕事についてだけまだ何も聞いていなかった。
「リコは、どんなとこで働いているの」
 敦之は、自分が梨古に驚くほど傾倒している事実を隠そうとはしなかった。でも梨古はいつも変わらずクールだったから、時々こうして甘えるのだ。そうすると梨古は、表には出さないけど幸せそうに微笑んでくれる。だけど今返ってきたのはあっさりした答えだけだった。
「働いてなんかいないわよ」
「は?」
 敦之はコーヒーを飲む手を止めた。梨古は済ました風に紅茶をかき混ぜた。
「働いてなんかいるわけ無いでしょう」
「だって」
 先を促そうと黙っている敦之に、梨古は言った。
「だって私まだ学生だもの。25歳のあなたとは、うんと年が違うんだから」
「!!」
 噴出しそうになるのをようやくこらえて、敦之は梨古を見た。なに、学生だって?
 そんな敦之を梨古はギロリと睨みあげた。
「ちょっと、あなた、私のこと幾つだと思ってたのよ」
「え!」
 敦之は血の気が引くのを肌で感じた。いや、まさかそんな。
 まてよ、俺が25で、学生? 4年生ならもう22だよな。でもリコのやつ確か…
「お前もしかして、未成年…?」
「だから言ったでしょ! 吠え面かくわよ、って」
 梨古は立ち上がった。
「敦之、サイテー。私帰る」
「わ、ちょ、ちょっと待て!」
 梨古には本当に驚かされる。そんなに年下なのに、25の俺を、こんなに魅了するなんて。年上の方が好みに近かった俺が、年下とはな……
 でも。俺は手にいれた。オルフェウスの竪琴を。そして彼女は普通の恋する乙女になったのだ。時に魅惑的な魔物の一面を見せながら。
 敦之は慌てて追いかけながら、彼女を確実に手離せなくなっている自分に、言い様のない満足を感じるのだった。彼女と自分の完全なる勝利は続いているのだから。

おしまい