CHRISTMAS DREAM

§0

 今日はクリスマス。
 年に一度の奇跡の日。
 街を飾り立てた沢山の気持ちがゆらめいて、きらきらと輝く。
 沢山の“僕・私”を映し出すそのきらめきに胸がときめいて苦しい。
 いつもこの季節がこんな風であれば。
 冬を寒いなんて思ったりしないだろう。

 フッと、薄い笑みがまとわりつくと、あの人のもとへと行く電車に飛び乗った。

 〈今日は一体ぜんたいどんなお話がまっているでしょう……〉



Side:圭太 

 神山圭太は、高校で所属するサッカー部の放課後練習へ向かうため走っていた。今日は日直で少し遅くなってしまったから急がねばならない。言いつけられた用事を適当にこなしていたら怒られて、やり直しを命ぜられたためにすっかり部活に行く時間が遅くなってしまったのだ。
 更衣室で急いで着替えてからグラウンドへと向かう。ヤバイヤバイと口にしながら、圭太は廊下の角を勢い良く曲がろうとして、階段を下りようとした人物と危うくぶつかりそうになった。
「「あ」」
 同時に声があがる。
「ごめんなさいっ」
「こちらこそごめんなさい…ってあれ、神山君」
「はい?」
 ふいに名前を呼ばれて圭太は相手の顔を見た。ぶつかりそうになったのは制服も凛と着こなし、笑顔も爽やかなスポーツ美少女といった風情。切れ長の瞳も美しく、圭太を惑わせた。
「大丈夫? ごめんなさい。あたし急いでたから」
「はあ、すいません」
「これから部活?」
「ええ、まあ」
 確かに綺麗だ。そして俺の知り合い。
 …でもこの人は一体誰?
 圭太には見覚えもなにもなかった。わからないまま圭太は「じゃあ」とその場を立ち去ろうとした。
「神山圭太君」
が、不意に相手が呼び止める。
「?」
 既に下校者も部活へ行く者も廊下にはいない。きょろきょろと誰もいない辺りを見回して、もう一度相手の顔を見た。相手の少女はくすりと笑うと、首を一方に傾けた。
「君以外いないでしょ」
「そうっスね」
 圭太はぽりぽりと鼻をかいて、ぎこちなく返事する。
「あたしのことわからない? 神山君のことは、たまに予備校でも見かけるけど」
「予備校」
 圭太は最近予備校に通い出した。2年も終わりで、受験に向けて少しは活動しているのだ。
「あたしは3年の丹羽華(にわ はな)っていうの。今日はもっと早く来るはずだったんだけどすっかり遅くなっちゃって。でもこんなにすぐ君に会えるなんて、ちょっと嬉しいな」
 華と名乗る先輩は、臆面もなく圭太に微笑んだ。圭太はもう学校もないはずの3年生が俺に何の用だろうと、少し緊張を覚えた。
「そもそもはね。神山君、覚えてないかもしれないけど電車の中で1度助けてくれたことがあるの」
「俺がですか?」
「ええ」
 圭太は驚いた。そんな記憶全くないからだ。
「わからない?」
「ええ〜〜、申し訳ないですけど、人違いでは…」
「そんなことないわ。だって、確かに君だったもの」
 華はちょっと語気を強めて、ぐっと圭太に寄った。
「電車の中であたしが痴漢にあった時、君が痴漢の手を捕まえて、言ってくれたの。『俺のこと触った痴漢!』って。あたしが恥ずかしい思いしないように言ってくれたのかなって、すごく嬉しかった。それから君のこと探すようになって…」
 華はきりりといったん口を引き締めると、言葉をつないだ。
「制服見てたから、あ、うちの生徒なんだってわかってたし、サッカー部のバッグ持ってたから探すのは簡単だったわ。そしたら、神山君は1年からレギュラー取っちゃうようなすごい人だって聞いて驚いて、なんだか部の人たちとも仲良くて、誰にでも気さくって言うの? 明るいんだなあって。いつもあなたの周りには誰かがいた。あたしグラウンドをよく階段の上から見てたのよ。だから足もとっても速いのも知ってる。自分にないものじゃなくて、自分にあるものを活かしてプレーしてるって知ってる。それから、予備校。あれは本当嬉しかったな。同じ予備校だなんて、偶然見つけた時は驚いちゃった。2年生なのにそういうのちゃんと考えてるのもえらいって感心したの。
 そうやっていつも見ていてね、思ったの。君は優しくて思いやりがあって、状況を冷静に考えて行動できる素敵な人だって。気がつけば、君ばかりを目で探しているあたしがいた。
 …あたし、もうすぐ受験でしょう? だからこの曖昧なのをきちんと決着つけたかったんだ。駄目でも良くても、全てを片付けてから受験に挑みたかった」
 急に華の頬が赤らんだかと思うと、すうと息を吸う音が聞こえた。
「だから、あたしね、神山君」
 ぽかんと華を見て、現実に起こっていることがよく飲み込めないでいる圭太はぐるぐると耳に入ってくる言葉を反芻していた。
 確かにそんなことをした記憶はある。だけどそれはそこまでのことじゃない。
 華の口が動いてしまう。
 そう思うと、圭太は考えるよりも先に遮っていた。
「わーっ、待って、待ってください! 華先輩、駄目、駄目!」
「?」
 圭太は珍しく赤い顔をしながら、ええと、と手荷物を抱えなおした。
「ええとですね。その、俺、華先輩が思うような人間じゃないって思うんです」
「神山君?」
 華は急に眉をしかめると、気色ばんで言った。
「ちょっと待って、聞きもしないうちからそれは断ろうっていうこと?」
「いや、あの、そうじゃなくて、ええと、なんて言ったらいいのかな」
 圭太は戸惑いながら、言葉を捜した。でもその丸い瞳はまっすぐに華をとらえ、曇りなくはっきりしたものだった。
「例えば。あれだ、最初の痴漢の件。あれは華先輩を助けるつもりじゃなかったよ。本当に自分が触られていて嫌だと思ったからしたまでのことだった。だからそんな風に勘違いされて喜ばれるものでもないし、結局自分の事しか見えてないってことなんです。華先輩のいうように周囲を見渡せるほど広い視野を持ってるわけじゃないし、思いやりで庇えるほど他人の事を考えてるっていうのも間違いってことです。
 レギュラーは確かに自分で勝ち取った気はしてます。でもじゃあ、レギュラーだからすごいんですか? 2軍で頑張ってるやつらは下手ってことですか? 俺はそうじゃないと思う。だってチームだから。俺たちは1チームの中でやってるからその駒はその時々で動くものだと思う。それがたまたま今俺なだけだって思うんです。
 最後に予備校。あれは親にそろそろ何かしなさいって言われたから行き始めただけ。あんまり気乗りもしないから、適当にさぼったりもするし、授業中も考え事をしていたりで全然身が入っていないし。ね? 同じ予備校に華先輩がいるってことも気がつかなかったでしょう」
 圭太の告白に、華は少し躊躇した。もう一度息を吸って何か言おうとしたのも、圭太は遮った。
「つまりですね、俺っちが言いたいのは。自分は華先輩に何か言ってもらえるほどいい人間でもないし、そんな勘違いしたまま華先輩の大事な言葉と時間を奪っちゃうのは、ちょっとまずいかなーってことで」
 圭太はぽりぽりと後頭部をさすると、二カッと笑みを浮かべて自分より少し背の高い美少女を見上げた。
「そんなわけで、俺部活行きます。でもなんか楽しかったです。だから華ちゃん先輩、受験頑張ってください」
 今度は相手がぽかんとする番だった。階段を軽やかにおりていく圭太。その表情はいつもと同じ。けれどそれは階段の踊り場まで来た時に、止められた。
「待って!」
 スタタタとおりてくる足音。その頬は上気してさっきよりも目つきがきりりとしている。圭太はしまった怒らせたかな、と一瞬びくついて上を見た。華は手すりを滑り降りるように片手を添えて、あっという間に圭太の段までおりてきた。
「待ってちょうだい! 神山君」
「はい?」
 華は一息ついて胸に軽く拳をあてると、びくつく圭太と裏腹に元気よく言った。

「あたし、やっぱり神山君好きだよ!」

「え!」
「だって」
 大きな目を更に大きくしている圭太を見て、華は微笑んだ。
「だって、あたしが勘違いしてるからって、告白を止めてくれたんでしょう? それって思いやりじゃないの? 自分のこと美化してるって、正直に本音を吐いてくれたのは、悪いこと? 確かにあたしの想像と神山君は違ったのかもしれない。でもそんなのみんなそうだと思うよ。だって人間て奥が深いもの。付き合ってたってきっとわからないことなんか沢山あると思う。
 例えそのきっかけが勘違いだとしても、出会いは出会いじゃないかな。あたしはそんな表面的なことだけじゃこんなに大好きになったりしないって。うんそうだ。やっぱり神山君のこと好きだな。今どうこうしてほしいわけじゃない。このすごい気持ちを、どうしても伝えたくてたまらなかったの」
 華の真っ直ぐな視線に見つめられて、赤くなった圭太の体に入っていた力が自然にゆるんだ。
「出会いは出会いかあ」
「そう。間違ってても勘違いでもいいじゃん。なんでもそこから始まるんだよ」
「そっかあ」
「そうだよ」
 2人はあははと笑いあった。変なの。いつも「思ったのと全然違う」なんて言われてフラレたりするのに、この人は最初っからそんなこと言ってら。圭太の胸の中に、赤い箱が1つ落っこちてきた。
「華ちゃん先輩、って呼んでくれたの、神山君らしくて嬉しいな」
「テヘヘ」
「あ! あんまり遅くなったらマズイよね。部活でしょう?」
「あ、ヤベ」
 圭太はあたふたと時計を見た。
「しまった、行かなきゃ」
 圭太が心配げに華を見ると、でも華はすっきりと爽やかな笑顔で手を振る。
「行ってらっしゃい」
「じゃあ」

 ここで何て言えばいいんだろう。
 このまま去ってしまっていいのかな?
 でも…

「行ってきます!」
「うん」
「受験、華ちゃん先輩ならゼッタイ大丈夫!」
「本当?」
「華ちゃん先輩いい人だもん」
「神山君…」
「俺、こんなの初めてだ。ありがとう先輩」
「…」
「またね!」
 圭太は走り出した。
 振り返りたかった気もしたけど、今はとにかく走らなきゃ。
 圭太はニコニコとしてグラウンドに向かった。
 よし、今日から俺はもっとすごいやつになろう。

 華ちゃん先輩が思ってたような――

 圭太は胸にプレゼントを抱えて走り続けた。



Side:裕美子

 その日の放課後のことだった。
「ごめん、先行ってて」
「うん」
 諸用で部活に遅れた私は、部活へ向かう途中、ふと気になって教室を覗いた。
 だけど教室に先ほどまでまだいたはずの彼は消えていた。期待してたわけじゃない。もうとっくに部活の始まっている時間だもの。
 荷物も一緒に消えている。当然よね。
 それだけ確認すると、小さく溜め息をついて急いだ。

 …グラウンドにつくと、すぐに彼の姿を探す。今日は冬休み前最後の部活だし、クリスマスも間近い。いつも小さな嬉しいことを探すのが私の日課だけど、今日は何かあるかしら。
 ――あ、また一緒にいる。
 私はちょっとがっかりと俯いた。彼の横には同じマネージャーの美夕ちゃん。いいなあ、彼女。いつもあんな風に臆せずに彼の傍へいけるなんて……
「真野さーん、ちょっと」
 ドキっとする。あれ、呼ばれてるのは私?
「は、はいっ」
 冷たい風がとても強くて、きゃあきゃあと遠くで騒ぐ声が聞こえる。私も凍えそうだったけど、呼ばれた瞬間にそれは南風へと変わった。私は急いで呼ばれた方へ走った。
「なあに、安倍君」
「ごめん、頼まれてくれないかな」
「もちろん」
 さっきまで一緒にいたはずの彼女はもういない。備品を持ってどこかへ消えている。
 用事は安部君についてまわるもの。やだ、嬉しい…

 ……安倍君と共にいられるんだわ……



Side:夏希 

 グラウンドへの緩やかな坂を下り、部員たちに挨拶しながらも岡江夏希はきょろきょろとしていた。
「あ、来た来た夏希、遅かったじゃん」
「タケに美夕だ。お疲れ様ー」
 美夕はにこりと満面の笑顔を見せた。横には夏希の彼氏である永廻威(ながさこ たけし)のあどけない笑み。
「あんたたちまた一緒にいちゃついて。夏希様に内緒で何の悪巧み〜〜?」
「そんなんじゃないよ」
「いやあ夏希ちゃん、今日も可愛いねえ!」
「なによ、誤魔化す気!? いい加減そういうのやめてよー」
 夏希はぷうとふくれてみせる。美夕がまあまあと夏希に言った。
「それより今日のクリスマスパーティの準備、ばっちりできた?」
「もちろんよ」
 夏希はホクホクとした笑顔になった。今日は冬休み前最後の部活で、終わったらサッカー部2年でクリスマスパーティをする予定だった。夏希とタケはその幹事役。夫婦漫才ばりの司会で盛り上げる予定だ。
「すっごい面白くするから。楽しみにしてて」
「うん」
「美夕こそプレゼントはバッチリ?」
「もっちろん」
「すっごい変なのだったりして〜」
「大丈夫、真面目にいいヤツ選んじゃったから」
 2人は笑い合う。この笑顔を盗まなきゃね。夏希は美夕をじっくりと見た。そこでタケが2人の様子を眺めて、
「んじゃ、グラウンド走ってくる」
と行ってしまった。美夕が声をひそめて夏希に聞いてきた。
「イブはやっぱり、お泊り?」
「うん多分。だから当初の予定通り、美夕、お願いね。そのかわり、私も美夕のフォローするから」
「う、うん」
 夏希はまた後でと部室の方へ向かった。なんだか自然に顔がゆるんでしまって、誰もいないのにニコニコとしてしまう。ここのところ打ち合わせでタケといる時間が多かったせいだろうか。部室に向かっても笑っていた夏希はそうだ、と一瞬振り返った。振り返ってぎくりと立ち止まった。
 行ったはずのタケが美夕の所まで引き返している。それに何か囁き合ってる。
 タケがこそこそと何か話すと美夕の顔がパッと輝いた。美夕が頷き、タケが面白そうに再び何か囁く。しかし美夕は今度は首を横に振った。タケはその場を去って振り返りもせずにOKのマークを出した。それを見送る美夕の姿。
 何気なく見たことだった。だけど、自分が気付いていないはずだったところで目撃してしまうと。夏希は自分の顔に高揚が走っているのに気がついた。
 ゆっくりとグラウンドを走り始めたタケをちらりと振り返って、あたしは本当のところ愛のキューピッドの方じゃないかしらと、夏希は独り言(ご)ちた。
 


Side:孝明 

 最初はアベシで、次はタケ。
 俺はちぇっと舌打ちしてアップトレーニングを済ませた。岡江が去ったのを機にすかさず美夕に近づいたタケの姿を見て、俺はぐっと喉につまらざるを得なかった。
 つまらない嫉妬はやめにしたいけど、誰でもかれでもヒトの彼女に近づいたり触ったりしていると思うと気分が拗ねた方へ向かってしまう。俺はもう一度舌打ちした。もうすぐクリスマスだってのに、やってくるのは意地悪な仕打ちばかり。

 美夕さんもう少しガードを固くしてください。

 これが俺のサンタへの望みなんて、ちょっと寂しすぎやしないか?
 バッグをベンチに放り投げようとしたところで、呼ばれる声がした。
「ああ、岡江か」
「ねえちょっと、いいかな」
 ぐいぐいと引っ張られて、一段階落ちたトーンの声で囁かれる。
「なに」
「美夕のことなんだけど。最近何か隠し事したり企てがあるなんて、聞いてなあい?」
「何でそんなこと急に」
 こいつまたタケのことでも疑ってるのか、いい加減…と思いかけて、はたと気付く。いや、まてよ、かえって俺のことかもしれない。案外聞いておいた方がいいぞ……
「美夕また俺の相談でもしてきた?」
「へ? ううん別に」
「誰かになんか言われた?」
「そういうわけじゃあ…」
「でもそう言われてみれば、美夕少しおかしいか?」
 考え込もうとする俺を見て、岡江はちょっとちょっとと焦り出した。
「そこはいい加減気にしなくていいよ。自信持ってよ。大体さ、美夕はアレをちゃんと実行したんでしょ?」
「『アレ』?」
「そ。夏希さん直伝の落としテク」
 岡江は自信たっぷりに俺を見る。
「なんだそれ、よくわかんないけど」
 俺の様子に岡江はニンマリとする。
「君が真の男かどうか試したんだけど…その様子じゃあまだなのね。美夕め、あれほど言ったのに実践してないな〜。うーん、さっきのことといい懲らしめてやる〜」
 おいおいなんだよ…
 訳もわからないでいるままの俺を取り残して、「倉本孝明敗れたり〜」と岡江は行ってしまった。
 隠し事と、落としテク…そもそも落とすって何を……?
「岡江の方が問題あるんじゃ?」
 岡江に気絶させられるタケを思い浮かべて、俺は首を振りふり集合場所へと向かった。  



Side:美夕 

「メリークリスマース!」
 部活が終わったあと。
 ほんの少し気の早いクリスマスパーティは賑やかで、最初はくじで決めた席順も、いつの間にか散り散りになっている。
 サッカー部2年の皆で集まり、貸し切ったパーティスペースで飲んだり食べたり騒ぎ合い。カラオケにゲーム大会にこの後プレゼント交換もあるからみんな舞い上がって。
 なんかこんな楽しくっていいのかなあ、と美夕はぼんやり考えた。

 始め席の遠かった孝明も、今は神山圭太と共に美夕の向かいまで来ている。孝明は今日ちょっと気にかかることがあったらしい。さっきから神山をからかうことに専念している。それは孝明の気持ちが不安定な時の癖だった。どうやら彼にかまっていると気持ちが落ち着くらしい。
 妙に神山と戯れる姿に耐えられなくなった美夕は、孝明に声をかけた。
「ねえなんかあったの? 神山君のこと苛め過ぎじゃない?」
 だが孝明はニヤニヤとしただけだった。
「もう。あたしだって話したいこといっぱいあるのにな」
 最後の方はブツブツと独り言みたくなりながら、美夕が2人を見上げると、神山が口を開いた。
「どうしたの桜ちゃん。悩みがあるなら俺聞くよ」
「ん? いえいえ、そうじゃなくて…」
 美夕が戸惑っていると、孝明はちらっと美夕を見て笑った。
「いいのいいの、圭太は俺に遊ばれるのが嬉しいらしいから」
「そうだよ桜っち。あ、そうかわかった。俺っちがクラを独り占めしてるのが、憎いんでしょ」
「カーミーヤーマーく〜〜〜ん」
 この天然め! と小憎らしい気持ちを美夕が表そうとした瞬間、大きな声が響いた。
「お待たせしました〜。本日のメインイベント、プレゼント交換ターイム!」
 幹事&司会の永廻と夏希が、歓声を浴びる。いよいよパーティもクライマックスだ。夏希がマイクを持って説明し始めた。
「今日私たちがみんなから預かったプレゼントには、ランダムに番号札が付いていまーす。何番が誰からの物かはわからなくなっているのでお楽しみ! これからみんなの代わりに、さっきのビンゴの機械を使って番号をひいていきます。ひいて出てきた番号の賞品をゲットー! 私たちの分は最後にひきますから、さっきゲームで使ったこの名前の順番に私がビンゴのボタンを押すってことで、よろしくー」
 そこで永廻が手を挙げた。
「ハイ・ハイ! ここでお手伝いの桜さんと真野さんお願いしまーす」
 美夕は慌てて席を立った。
 各イベント毎、幹事にヘルプがついていて、プレゼント交換はマネージャーの美夕と真野裕美子が手伝うことになっていた。この場は永廻と夏希が司会と番号引きを兼ねて、裕美子が本人にプレゼントを渡す係り、美夕が番号のプレゼントを探して裕美子に手渡す係りになっていた。美夕と裕美子はせっせとプレゼント箱を隅から出してきて、司会の後ろに置いた。
「それじゃあいっくよー! 今日の私の運勢は最高だからみんな期待してねー! はいっ!」
 夏希が陽気にビンゴのボタンを押す。ビンゴ玉は透明のプラスチックの中でくるくると回り、しばらくするとポコッと下から出てくる。永廻がその番号を読み上げる。
「13番!」
 美夕はあたふたと箱からプレゼントを引っ張り出し、裕美子に渡した。同じ値段設定でも大きさもラッピングもバラバラ。誰がどれを用意したかもわからないので、貰う方は色々な意味で緊張する。
 プレゼントを買った人はこの場では秘密にしておくルールだが、そのセンスからばれてしまったりがまた場を盛り上げていた。
 しばらくするうち美夕のプレゼントを選ぶ番になった。
「じゃあ特別サービスってことで、数少ない女の子の2人には自分でひかせてあげよう」
「わーい」
 永廻の提案に、美夕と裕美子は喜んだ。すかさず異議が入る。
「ちょっと、私はどうなんのよ」
「まあまあ夏希さん、夏希さんも最後にひかせてあげますから。最後だから玉2つしか残ってないけど」
「ってゆーか、もともと私がひいてるんだから、意味ないじゃん! いいもん!」
 2人の痴話喧嘩を尻目に、早く早くという声がして、美夕はドキドキしながらボタンを押した。もし孝明の選んだものが偶然当たってしまったら、これはもう、運命としかいいようがない。

 緊張する胸の音と高まり合うようにガラガラガラと中で混ざる音がして、赤の玉が飛び出てきた。
「1番!」
「やった、1番だ!」

 おーという歓声があがった。
 しかし「別に1番が1等なわけじゃありません」という夏希の非情な声と共に、ああーというがっかりした声があがった。美夕はちぇと呟いて、それでもワクワクとプレゼントを待った。
「はい、美夕ちゃん。おめでとう!」
 裕美子の優しい言葉と共に渡された赤い包み紙は、小ぶりだったけど少し重みが感じられる。美夕がみんなに見せようとした瞬間、神山の声が響いた。

「あ! それ俺の!!」

「……」
 シーンと一瞬静まった後、ブーイングが起こった時には孝明が神山の頬を両方から引っ張った後だった。
「イデデデデデ」
「神山くーん、それはこの場で言ったら駄目だって、ちゃーんと説明したよねー」
 夏希が凍りついた笑顔で言う。
「えー、桜さん、気にしないで下さい」
「はい」
 永廻のフォローに、美夕は笑う。多少残念でもあったけどまあいっか、とプレゼントを抱えた。神山は言葉をなくしてなにかごにょごにょと言っている。でもそれは美夕の耳にまでは届かなかった。
 隣にいた孝明が突然神山の前に大盛りの皿を出した。
「圭太、これ食うか?」
 その様子を見て美夕はあれ、と首を傾げた。
 ――さっきまでいじめてたのに、急に優しくなってる。
 美夕は訝りながらも、大事な仕事であるプレゼント配布係りに戻った。



Side:安倍 

 今夜のクリスマスパーティはなかなか楽しい。
 プレゼント交換タイムが始まった時、安倍は周囲とおしゃべりをしながらも、前の方ばかり見ていた。誰がどのプレゼントをもらおうが良かったけれど、せっせせっせとプレゼントの包みを取り出している美夕はどうしても追わずにはおれない。
 ちょっと未練がましすぎるかな。
 安倍は表情を表に出さないようにしながらも、苦笑した気持ちで美夕を見続けた。まあそんなに簡単には忘れられるもんじゃないよな。
 ……思いは美夕へと自然に飛んでいく。
 最近、前よりももっと美夕と腹を割って話せるようになった気がする。
 別に親友になったとかそこまでのものでもないけれど、別れてからのあのぎこちなさを超えて、お互い前へ進もうという余裕が出てきたというのか。それはそれで喜ばしいと思うが、一方でまだ諦めきれていない自分の気持ちをもてあましている…。
 あの目。
 綺麗な形をして、何かいいたげな色。
 入り込むことのできなかった視線の奥。
 美夕を見つめると、瞳が警戒と拒絶と寛容とどれを選ぶか迷っているように見えて、己を制御せよという理性を働かせるしかなくなってしまう。いや、どうにかしたいわけじゃないのに、情けない自分に呆れてるのだ。
 こんな状態よくないよな。このままは…。

「おい」

 誰かにがしっと肩をつかまれて、安倍は現実に引き戻された。
「次、プレゼント。アベシの番だってよ」
「あ? ああ」
 美夕を見つめてたってばれてないだろうな。恐る恐る振り見れば、不安そうな瞳の倉本孝明が自分を見ていた。マズイな。安倍は苦笑しつつ岡江に合図を送ると、変な顔をしていた岡江夏希が黙ってビンゴのスイッチを押す。周りが囃し立てる中、ビンゴはコロコロと番号をはじき出した。
「5番!」
 永廻の声が響く。ぼんやりと受け取るために前に出たところで、美夕がぎくりとしたのに気がついた。

 おかしい、と思った。
 無表情のまま美夕を見る。ほんの一瞬だったが顔が高揚してプレゼントを持つ手が震えた。それからぎゅっと唇をかみ締めて、何事もなかったように真野裕美子の方へ渡す。渡す手が妙に空々しい。
 普通の人ならば気がつかない一連の流れの中に、それは組み込まれていた。伊達に同じ部にいるわけじゃない。彼女のことは結構見てきたつもりだ。
 安倍にはそれが何を意味するか、明確すぎるくらいわかっていた。
 ……マジですか。
 緊張しているのを押し隠して、安倍は裕美子から包みを受け取る。美夕がこちらを余り見ないようにしているのがちょっと複雑。
 多分あれは、彼女の…。

 席へ戻って騒がれても、安倍は中を開けなかった。中を見るのは1人でじっくりと。そう決めたからだ。部長という権限が、この時ばかりは周囲を押さえ込むのに丁度良かった。
 安倍は少し渇いた喉を、ウーロン茶で潤した…。

 パーティが終わって帰る時間。
 当然倉本と一緒にいる美夕に「ちょっと」と声をかけて、倉本には目で合図した。
 ――ごめん、借りる。
 倉本は嫌な顔をせずに肩で[どうぞ]、と返事した。ぽかんとしたままの美夕を誰もいない壁際に引き寄せて、手に持った包みを見せつつ、静かな声で話し始める。
「美夕、プレゼント交換のことだけど」
 相手が一瞬顔色を変えたのがわかって安倍は笑った。
「このプレゼント、美夕が選んだやつでしょ」
「あー…バレちゃった?」
 困った顔をしている美夕の顔を見て、安倍はやっぱりね、と呟いた。すると美夕は頬に朱を走らせて舌を出した。こういう表情を見せつけられると、倉本を嫌いになりそうになる、と安倍は無表情に考えた。
「あんなバレバレな態度じゃあなあ」
「え、嘘! バレバレだった?」
 慌てる美夕が面白くて、安倍は優しく言った。
「クラはどう思ったか知らないけど、少なくとも気がついている人はそんなにいないと思うから」
「なんかちょっと、自分のって恥ずかしいよね」
 もじもじとしている美夕に安倍は冗談ぽく意地悪を言ってみたくなる。
「あんなにあからさまに嫌がられちゃったからな…。そんなに俺に当たったのが嫌だったのかな」
「ちっ、違うよ」
 あたふたとする美夕の表情が可愛らしい。以前よりも格段に、気持ちをストレートに表している。安倍はふうと1つ息を吐いた。
「ハハ、冗談冗談。まあ俺は、誰かの代わりなんて嫌だから、美夕から直接もらったつもりでいるけど、いい?」
 困らせるために言ってみたのに、でも美夕は。
「うん、それでいいよ」
「え?」
「それでいいんじゃないかな」
「……」
 安倍の頬が自然に熱くなった。
 自然に落ちて行った目線の先、手に持ったプレゼントがとても暖かいような気がした。

「あたしから、真哉へのクリスマスプレゼント」

 安倍は――

「わかった」

 小さく呟いて、もう行っていいよと美夕を追い返した。
 こういう気持ちって、なんていうんだろ…
 手を振って駆け出した美夕を見ることも出来ずに、安倍は1人、佇んでいた。
 


Side:永廻 

「あー! やっと終わった!」
「そうだな」
「楽しかったね」
「うん」
 夏希と歩きながらタケは、面白そうにニコニコと夏希を見ていた。
 気がつけば夏希の手を取ってぎゅうっと掴んでいる。手をつなぐのはいつものことだけど、いつにない握り具合に夏希が驚いてタケを見た。
「ターケー?」
 タケはあははと冗談めかして言う。
「なあんだ、つれないなあ。いいじゃん、ボクたち『こいびと』の仲でしょう?」
「それはー。そうじゃなくて、タケ、さっきから、変」
 タケはニコニコと紙袋を持ち上げて、がさがさと振って見せた。
「これ、夏希と俺の戦利品。すっげー嬉しい」
「はあ? たかが高校生のクリパの、予算1500円のプレゼントがそんなに嬉しいわけ?」
「俺は嬉しいね。それに」
 タケは胸を張って見せた。
「1500円じゃないんだな、これが」
 タケは一歩ずいと近寄ると、夏希の顔を覗き込んだ。
「な、なによ。意味わかんない」
 ぎゅっと握られた手を引こうとする夏希を制して、更に力を込める。
「俺はお前に1500円のクリスマスプレゼントなんて用意していない」
 夏希はぎょっとしてタケを仰ぎ見た。
「どういう事!? 私がビンゴで最後に当てたのが、なんかあるって言うの? それとも幹事特約でなんかうまいことお金集めて何か買ったとでも言うの!? でも違うな、そんなわけない」
 悩む夏希を見てタケは機嫌悪そうにする。
「何だよ夏希ぃ、お前、わかんねーのかよ」
 ぶすっとした顔で紙袋を持ち上げると、明らかに不満声を夏希にぶつけた。信じられないといわんばかりに袋を覗き込み、夏希とかわるがわる見比べる。中にはどう見ても女物のギフトとしか見れない包みが1つ。もう1つタケがゲットした何かわからないプレゼントと一緒に入っている。
「あのー、わかんないんですけどー」
 夏希はそれだけ言うと、申し訳なさそうに紙袋を受け取るため手を伸ばした。タケはさっと袋を持った手を引くと「ちょっと話がある」と駅ホームの階段をのぼり始めた。
「ま、待って!」
「じゃあ付いてこいよ」
「待ってよ!」
 手をひかれて転びそうになりながら、夏希はタケのあとを追った。タケはのぼりきった地上出口で振り返ると、「あそこでこれを開けろ!」と、夏希の賞品であるプレゼントを取り出した。
「なんで今これを」
「いいから開けてみろよ」
 タケは急に優しい顔つきになると、街灯の下で夏希に包みを手渡した。

 緊張気味に開封している夏希。タケは寒そうにコートのポケットに手を突っ込むと「で、どうなんだよ」とぶっきらぼうにしてみせる。
 でもそう言われた夏希はただ黙って驚いていた。中には夏希が欲しかったというネックレスが1つ。ちょっと高くてでも欲しくて、おねだりするのもはばかられるような物だったのにと口をパクパクさせている。タケはフフフと妖しげな笑みをこぼした。
「どうだ」
「なんで…どして? ……だってこれ、誰が買ってきたかもわからなくて、どれが当たるかも偶然なんだよ? それとも偶然が奇跡を呼んだとでもいうの!?」
 戸惑いつつも感動している夏希をよそに、タケは飄々と言った。
「へへへ、これは確かに夏希がビンゴで当てたプレゼントだ」
「だって、どう考えてもこれ、タケがあたしに買ってくれたものでしょう!?」
「気の早いサンタでも来たんじゃねーの、っておわっ、お前、なんだよ、泣いてンのかよ!」
 慌てるタケの前で、気丈なはずの夏希がぽろぽろと涙をこぼしていた。どうやらこのサプライズは効き目が強すぎたらしい。夏希の奥底に眠る、本来の脆い部分がもろに出てしまったようだ。夏希はくそうなんて言いながら、涙を必死に拭いている。でも拭いても拭いても出てくるらしい。そんな夏希が愛しくなって、タケはフワリと彼女を抱き締めた。
「ちょっと早いけど、夏希、俺からのプレゼント」
「なんで…なんで…」
 夏希はタケの胸で泣き続けた。あははしょうがないなあと、タケは種明かしをすることにした。
「実はさあ、美夕に頼んでたんだよね」
「美夕?」
「そ」
 タケは当日になって急に思いついた。これを偶然を装って夏希に渡したら、ゼッタイに面白いだろう、と。
「部活の時に美夕に頼んだんだ。俺のプレゼントをあらかじめ教えておくから、それには番号を付けないでおいてくれって。そうしたら、余った番号が来た時に、別のものと取り替えちゃえばいいだろ? んで、夏希の番が来る最後まで俺のプレゼントは美夕によって残される、と。美夕と真野さんが引く時は俺がプレゼントを用意するから取られる心配もないし。な? うまい手だろ?」
 自信たっぷりなタケに引き換え、夏希は俯き気味だった。でもその頬は上気して、夏希がとても喜んでいるのがわかったから、タケは充分それで満足だった。
「ねえタケ」
「ん?」
「私のこと、好き…?」
「バカだなあ、当たり前だろ」
「エヘヘ」
「よし、ほら、今日はもう帰るぞ」
「うん」

 ああ、とても大好きだ。
 タケはニコニコと手をつないで帰った。夏希と別れてからも、体がホクホクしていた。
 明日は、どんな風に夏希を喜ばそうかな。
 家に帰ったらもう一回、夏希に、電話しよう…



Side:孝明 

「今日は本当、楽しかったね!」
 頬を上気させた美夕と夜気にあたりながら、彼女の家路を行く。
「んで美夕、明日は何時にする?」
 俺は上機嫌だった。今日は変なシーンばかり目撃して軽く悔しがっていたのが、パーティのお陰ですっかり逆転していたからだ。なかなか良く出来たパーティだったと思う。圭太は時々キーマンなんじゃないかと思ってみたり。
「うーんとね。そしたら予定とかも、あの公園で考えない?」
「平気? 遅いし、暗くて寒いよ」
「じゃあホラ。お腹に穴のあいたゾウさんがいるでしょ? あの中なら街灯も近いし、少しはあったかいよ。あそこに座ろう」
「珍しい」
 美夕から誘ってくるなんて、珍しかった。寒いし遅いけど、まだ帰りたくない気持ちを一緒に抱いてくれてるのかなと嬉しくて、その誘いに乗ることにした。
 寒い中はくっついても許される。こういうのは、冬の特権かもしれない。美夕の家のそばの公園まで、手袋の手をつなぎあって肩を寄せながら小走りに行った。

「…さて」
 ゾウのすべり台下にある穴に入り込むと、額をつめて話し合う。明日の予定、なんていいながら、話すのは関係ないことばかり。こうしていると少し暖かい。きゅっとなる鼓動と、体のそこから湧き上がってくる痺れのような甘い感覚。この時間は、クリスマスじゃなくてもいつでもあるはずなのに。
「プレゼント、なにかなあ」
 美夕がワクワクした様子で言うと、ことり、と肩に頭をもたせてきた。その右肩が熱くなる。
「変なのじゃないといいけど」
「でも思ってるよりもいい物だと思うけど」
「え?」
 驚いたように自分を見つめる瞳。あんまり見つめられると辛いんだけどな。
「知ってるよ。中身。ちょっとワケありなんだ」
「そうなの? 中身知ってるの? あ、わかった。神山君と一緒に選んだんだ」
「違うよ」
 自然に出てしまうニヤケを手のひらで隠して、まあそのうちわかる、とだけ言っておいた。どうせ今晩にはわかってしまうこと。

「それより―――」
 右肩にかかる髪を、ゆっくりとなでた。肩下まであるすべらかな髪からいい香りがする。抱き締めたければいくらでも抱き締められるんだぞ。ちょっと笑いかけてきた顔を見て、そんな風に思うと、とても幸せな気がした。
 目の前にはほんのり上気した頬と目元、桜色してほど良い厚さの唇が誘うように鎮座している。ああもう、ダメ。いいよね?
「美夕」
 頬に新たな赤味が差して、美夕は口元を少しぎゅっと締めると、目を閉じた。
 バカみたいにあっけなく屈する自分に、でもやっぱりクリスマスって特別だよな、って。

 だって幸福であることをもっと感じさせてくれるから。

 サンキュ

 空のどこかにいるサンタから、ありがたくプレゼントを頂戴した。



Side:美夕 

 寝る前に、あたしは神山君が選んだとかいうプレゼントを開けてみた。
 これは孝明くんからのプレゼントじゃないのだから、こんなに緊張しなくてもいいはずなのに。ちょっと唇をかむと、かすかに震える指を包みにかけた。
 金色のリボンをほどき、赤いラッピング紙を開いてゆく。ドキドキしながら白い箱を見つめて身を引き締めると、えいっを蓋を取った。

「…時計」

 そこに入っていたのは、小さな目覚まし時計だった。
「時計? これのどこが、ワケありなんだろう」
 時計はそんなに変なデザインでもなく、普通に使えそう。
 試しに目覚ましを今の時間に合わせてみて、鳴らしてみる。すると。

「………!!」

 あたしは思わず溜め息が漏れているのに気付いて、満面の笑みで時計を見てしまった。花が咲いていくように広がる気持ち。
「なーんだ、そういうことかあ」
 徐々に浸透していくその声が、あたしの心を揺さぶっている。
「目覚ましに、孝明くんの声を入れてたのね」
 いい物もらっちゃったのかも、と目覚ましのスイッチをもう一度入れる。
 流れ出すのは、彼の優しい声。
 明日はこれで起きよう。
 時計をベッドヘッドに置くと、ゆっくりと横になった。

 ぐっすりと、眠ろう。ぐっすりと。
 明日は素敵な目覚めになるだろうから。

 夢の中で見えたもの。

 彼の素敵な笑顔…

Fin