ラブシチュ物語 参


MIYAKOが思うラブいシチュエーションの物語集(ブログまとめ)


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11

「ねえ、アキって、彼氏いんの?」
この春友達になったばかりのマリエはなんでもないような様子で尋ねるから、わたしは素直に「いない」と首を振って答えた。
「じゃあさ、好きな人は?」
これにも首を振る。

4月。この春、専門学校に入学して、新しい生活が始まった。
マリエとは帰り道も同じ方向で、朝も時々会ったりする。
ホームから上がるエスカレーターに乗りながら、マリエはふうんと気のない返事をする。
「マリエは?」
「……いないよ」
その間はなんだ。
そう思うけど私は別に突っ込まない。
「そうなんだあ」
「新しい恋が欲しいよね。せっかく4月だし」
「そうだね」
お互い腹の探り合いなのか。それ以上は無言で、改札階へと黙って運ばれる。

彼氏はいない。
それは本当。
好きな人もいない。
それも本当。
でも気になる人がいる。
まだ「好き」かどうかわかんないだけ。
会ってそんなに経ってないのに、好きかどうかなんてまだわかんない。
だけどその人を自然に目で追って楽しんでる自分がいる。
その人の前でだけ、髪の毛とか洋服の皺が気になったりしてる自分が。
そのことがこのまま「好き」につながるのかはわからない。
だけど、マリエの言う「新しい恋」に繋がればいいとは思う。
だって4月だから。
新しい求心力に向かって進む私も、悪くない。
2008.05.13

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12

ツクツクボウシ ツクツクボウシ
ミーンミンミンミンミン

今年初めての蝉が鳴いた
日差しと地面からの強い反射と車から吐き出される熱気で暑苦しいことこの上ないのに、木の葉からチラチラもれる太陽に目を細めながら、どこにいるのだろうと思わず見上げてしまう。
あっちが鳴けば、こっちはやみ
こっちが鳴けば、あっちが鳴き出す
お互い違う種族だけど、お互い挨拶して遠慮するみたいに順番コに鳴いたりして
地面から出たばかりの蝉たちはどこか初々しい不慣れな鳴き声。
まるで俺と彼女みたいだ。

Tシャツの胸元をつかんでぱたぱたと風を送る。
シャワーを浴びてきたのにもうすでに汗ばんでしまった。
汗臭くならないか心配で、くんと匂いを嗅いでみると、むんとした空気の匂いが肺に熱を送り込んだ。
蝉は見つからない。
あんなに存在を主張してるくせに、上手に木に隠れて、俺の目には映らない。
だけど恋する気持ちは確かに強く存在してて、恋しい相手を求めて強く強く放ってる。
まだまだ初心者な俺と彼女だけど、お互い大事に想う気持ちだけはいっぱいある。

今年初めて鳴いた蝉。
蝉はまだ、鳴き始めたばかり。
2008.07.29

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13(ラブシチュ?)

「あーあ、なんか面白ぇことねぇかな」
黙ってれば男前そうなのに、いつも余計なひと言で全てを台無しにするちっとも男らしくないマー君は、例のごとく暇だ暇だとぼやいた。
すぐにいっちゃんの突っ込みが入る。
「毎度毎度言うよな。マー君好きな人とかいねえの? 好きな人いたら毎日面白いって」
「3分後には別人にラブコール送ってるやつに言われたかねえ」
「こうやって皆とつるんでるの楽しかねえか」
爽やかに言ってのけたのは、本当に男前の性格のハル。これで一人っ子な上、お上品な家で女の子のように大事に育てられたというのだから意外だ。ハルに笑顔を返した後、そのままぐるりと首を回していっちゃんは、サッチーにからかうような視線を向ける。
「サッチーはどっちだと思う?」
「そうだな」
いっちゃんが同意を求める相手にわざと自分を選んでることにも気づかない鈍感なサッチーは、まるで全部わかってるかのように大きく頷いてる。自分が恋のこの字も知らない野暮てんだと思われてるとも知らずに、真剣に考える様子で、
「オレもまだ、皆とつるんでる方が楽しいな」
「ぷっ」
「ぷっ」
「くくっ」
いっちゃんとハルとおまけにマー君(マー君だってサッチーと大して変わりないくせに)、それから音もなく心の中で笑った俺に不思議そうに目をきょとんとさせたまま、サッチーは唇をへの字に曲げてる。
「何?」
「まあまあ、それよりさあハル、今日は奥様は?」
「あ? キミトシなら先帰った」
「えー、なんか怒らせたんじゃないの〜」
「いや、今日は用事があるからって」
「じゃあさ、一緒に帰ってあげた方が良かったんじゃない。拗ねるよ〜」
「キミトシはそんな狭量じゃねえよ」
ハルと幼馴染みでハル以外の人間は喋りかけることを一瞬躊躇してしまう雰囲気を持つ奥公寿君は、ハルが大体横にセットになってることから陰で「(ハルの)奥様」などと呼ばれてる。でも本人の前でそれを言ったらたぶん、ハルが後でひどい目にあうような気がする。うまくいけば「様」よばわりしてるだけ、と勘違いしてくれるかもだけど。いや、たぶん奥君は見た目通り鋭いので、ばれるだろう。これがサッチーだったら鈍感で単純だからどこにもひっかからないのだけど。
「なんか腹減ったな」
サッチーがお腹のあたりを押さえてぼやいた。
「俺も」
「じゃなんか食ってかねえ?」
「モスがいい」
「あーいいな。サウザン野菜とロースカツバーガー。オニポテとアップルパイと」
「けど金がねえ」
「俺も今月はちょっと厳しいな」
「ああ? お前ら貧乏だな」
「マー君はいいよな、小遣い多いし。これだから金持ちはヤなんだよ」
「はっ、貧乏人どもめ」
「じゃあ貧乏人の俺らは分相応にマックに行こうぜ。マー君置いて」
「っておい! 置いてくなよ!」
「だって、マー君はモスでたらふく食べるんだろ」
「うるせえな! お前らに合わせてマックで我慢してやるよ!」
「我慢なんてしなくていいよ、マー君の口には庶民派マックじゃあわないでしょ」
「オレはハンバーガー2個とチーズバーガー2個とシェイクS2個と」
「佐智は100円ものばっかだな」
「うっさいな、サッチーじゃなくても俺らはそういうメニューになるの。だからマー君は来なくていいって」
「つか金ないのに寄り道ばっかしてるから余計に金なくなるんじゃね?」
「わかってっけど、なんかこのまままっすぐ家帰んのとかやだし」
「だよなー」
「それこそつまんねえ」
「じゃあさ、うち来る?」
「おっ、さすがハル! どっかの嫌味なボンボンとは大違いだね! 話がわかる〜」
「ハルんちの飯豪華で美味いしな!」
「こんな人数でまた押し掛けて、お前んちよく怒んねえよな」
「うち、お袋が賑やかなの好きだから」
「できたお袋さんだよ〜。春日部家は本当にいい家だよ! 誰かさんちなんか、断ってお邪魔したって、すっごい嫌そうだったもん〜2度と行きたくねえし」
「やっぱできた人の家の子はできた人間になるんだって」
「だな。金持ってるの自慢だけして、奢ってもくれないヤツなんて、友達じゃないよな」
「おいお前らさっきから誰のこと言ってんだよ!」
「はあ〜? なんのこと」
「オレ、カスカベ家の料理なら何でも食べたい」
「ほんと、サッチーは色気より食い気だな!」
「じゃさ、ちょっとずつ金出してハルのお母さんにお土産買ってこうぜ」
「もちろんマー君以外からです、ってことで」
「なんで俺を抜かすんだよ!」
「いいだろ。お前はモスでもなんでも行ってりゃ」
「俺も連れてけ!」
「連れてけなんて図々しいなあ他所様の御宅に」
「じゃあお前1人でなんか豪華な土産買ってこいよ。金持ってんだろ」
「カスカベ家の夕飯はなんだろう」
「サッチーは食べることしか頭にないな!」
「夕飯まではゲームしよう」
「こないだのリベンジな」
「おう、なんでもいいぞ。あ、キミトシから電話だ。キミトシ? うん、うん。あのさ、これから皆連れて俺ん家に集まんだけど、お前も……え? いい? 何言ってんだよ、お前来ねえと始まんねえって。な、来てくれよ。お前いた方が皆も…いいじゃん、じゃあ家まで迎えに行くからさ。待ってろよ、すぐ行くから」
「奥様登場?」
電話してるハルの反対の耳に囁くように言う。ハルはにこっと頷く。
「おう、なんかブツブツ言ってっけど本当は来たいんだって。先にキミトシん家行ってから俺ん家な」
「そういえば奥様の家って初めてかも」
「すげえぞ。あいつの家、純和風でさ、でけえの」
「あ〜、奥様は見たまんま坊ちゃんって感じだもんな〜」
「同じ坊ちゃんでも誰かさんとは品が違うよな〜」
「奥君怖いけど、ハルが誘うと黙ってついてくるとこは可愛いよな」
「無理やり連れてけとか言うヤツとは違うよな」
「お前らいい加減にしろよ!」
「マー君声でかすぎ、電話の邪魔」
「っ……!」
「ぷっダサ」
「マー君がハルに怒られた!」
「ぷぷっ」
「てんめっ!」
「しーっ」
ハルが指を立てて、マー君は黙り込む。俺たちは再びくすくすと笑う。
毎日は勝手で、適当なことばっかだけど、それでもそういう時間は楽しい。
こうやってすることない、っていいながらすることを見つけてる時間が、俺は何よりも貴重だと思う。
毎日毎日暇だったらいい。
2008.09.15

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14

ずだーーーーんと響き渡った音に、さっきまで騒然としていた場は静まり返った。
はたで見ていた人間にだって何が起きたのかわからなかったのだ。当の本人がわかるよしもない。
「……」
呆れ返った相手方の1人が「あの…」とおそるおそる尋ねる。
この騒動に決着をつけた人物は、その問いただすような微妙な言葉にも変わらぬ鋭い一瞥をくれただけで、誰よりも早く常態に戻った。つまり、壁にくっついた紐を引っ張って、背負い投げの練習をするという。
「……」
一方、広い道場の畳の上でひっくりかえったままの被害者は、いまだ呆然と天井をみあげていた。
よほど投げ方がうまかったのだろう。体に痛みもなさそうだし、制服には乱れもなく、ただぽかんとしてる。
周囲はようやく動いていいということを思い出したらしく、この道場に投げられた本人と一緒になって苦情を申し立てにきた仲間たちは慌てて床でのびていた人間に走りよって来た。
「大丈夫!?」
「大丈夫じゃない」
「え!」
やはりどこか頭を打っていたのか、体は大丈夫なのかと心配げに気遣う友人を無視して、見事な一本背負いで投げられたその人はまだ起きようとしない。
これらのメンバーはあることで苦情を申し立てに柔道場に来て、そこでけんけんごうごうと苦情相手とやりあっていたところだった。その先鋒に立っていたのがガイシャだ。だって生徒会委員長などという肩書きがついてるのだから仕方ない。でも会長はスカートをはいた女子生徒だった。それをびっくりするほどの早さで背負い投げする男がこの世に存在するなど、誰が想像しえただろう。
しかし投げた彼の意図は今ならわかる。静かにしろ、稽古の邪魔するなという真っすぐな思いだけだ。ただそのやり方が強烈だっただけである。有段者として手加減とか力加減とかして畳に強く落とすような真似はせず、投げられたことにも気づかぬほどの素晴らしい技だったけれども、それにしたってこれはないだろう。
「ありえないでしょ!」
「信じらんない!!」
「素人相手の、しかも女の子に何するんだ!」
「会長、頭打ったの!?」
「体は!?」
「どこか怪我してない?」
「大丈夫じゃないって、会長の口から出るなんて!」
「この学校はもうお終いだ!」
「柔道部、次の予算覚えてなさいよ!」
「最低!!」
キーキー文句の方向を変え始めた仲間の子たちに向かって、彼女はようやく手のひらをあげた。
「違うの。大丈夫じゃないっていうのは、ここ」
会長はゆっくりと手のひらを胸に落とす。
「やばい。今ので落ちた」
「会長?」
「恋に落ちた」
「……」
5秒後に「会長が頭を打っておかしくなった」と大騒ぎが始まったのを止めたのは、今度は彼女自身だった。
2008.11.17

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15

うっとうしい雨がたくさん降る毎日はひどく憂鬱で、慣れて来た学校生活にも怠慢が忍び寄ってくる今日このごろ。
雨のせいで体もじめっとして、寒いのか蒸れてるのか煩わしい空気。
そういう日にあった席替えは、すごかった。
ちょっとだけこころが揺れ動いて、ちょっとだけ視線が揺れ動いてしまう、君を、僕の目の前に座らせてしまったのだから。

ただ真っ直ぐ前を見て授業を受けているフリをすれば、きせずして君を視界に入れられる。これがどれほどの奇跡か。
薄いシャツの背中に少し動揺しながら、君が黒板を書き写す度に動く髪の毛の色や、うなじの生え際のくるんと巻いた毛や、ほっそりとした二の腕の白さや、机の中のものを出す時に椅子を傾けたことで近づく距離を感じていればいいなんて。

でも時々となりのヤツと喋ってる君も見なくちゃならない。
確かに君は僕のものではないけれど。
僕の好きな君が誰かと話しているのを見るのは腹立たしい。
濡れた傘を2人の間に振りかざして邪魔してやりたい。
そういう衝動も我慢しなきゃいけない。

ムカつく、って消しゴムのかすをそいつの方へ飛ばしていたら、急にぱって彼女が振り返ってドキリとした。
むすっとした顔で頬杖をついていたから、嫌な顔とか思わなかっただろうか。
慌てて態度をあらためたけど、彼女は僕の机にメモを置くとすぐに前に向き直って何事もなかったかのようにまた授業を受けてしまった。
再び、彼女の背中が目の前に現れた。

対してこちらはもう気持ちがとんでいってしまって、すでに他のことは目に入っていない。
まわってきたメモはクラス中をぐるぐるしてるどうでもいいものだったけど、これを彼女から受け取れたって事実だけがまとわりついて、殴られたみたいに頭がじんじんしてる。
振り向いた時の顔が、可愛かった。
これを置いた手が、綺麗だった。

このメモを誰かにまわすのが惜しくて、何度も見てはにやけそうになるのをこらえた。
2009.06.01