ラブシチュ物語 弐


MIYAKOが思うラブいシチュエーションの物語集(ブログまとめ)
9は「バレンタインの神様」の元ネタ


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学校帰り。街に流れるクリスマスソング。
別に楽しみなわけでもないのに、気が付けばつられて「ホワイト・クリスマス」や「ママがサンタにキスをした」なんかを口ずさんでる。
クリスマスまではあと1ヶ月。今年もぼんやり友達とのクリパで盛り上がって終わるのかな。
ぶらぶらと歩きながら、綺麗に飾り付けられたショーウィンドウをじっと眺める。
その中にはシンデレラがパーティで履いてもおかしくないような綺麗な靴や、きっとすっごく素敵な彼がいたら思い切って買っちゃうのかなっていうドレスなんかをきたマネキンが、これから好きな人のもとへ向かいますというポージングで正面の男性のマネキンに走り寄ってる。

はぁ〜〜

ぼーっと見た。
羨ましくない、別に。
羨ましくなんかない。
そう思いながら唇からこぼれるクリスマスソングは「All I want for X'mas」
男性のマネキンの顔が、いつの間にかあの人にかわってて
駆け寄ってるのは私に変わってた。
『ごめん待った!』
『ううん』
『ごめんね。支度に時間かかっちゃって』
『今日、すっごく可愛いかっこうしてるもんね』
2人の間ではそんなやり取りが繰り返される
ロウソクの灯りがともり、聖夜に2人は手をとりあって、ロマンチックな時を迎える。

キュンとなる胸に、私は我にかえった
あーくだらない。やーめたっと
私は振り返ろうとして、ガラスにうつる顔にドキリとした。
「あ…」
振り向けないまま、でもガラスの中で彼に目を合わせたまま、私はひっそりと赤面する。
大好きな彼が、友達と帰ることろだった。
そして彼は、私と同じショーウィンドウをじっと見てた。

わ…すごい偶然…

恥ずかしくて動けない。きっとあっちは私が気付いたことなんて気付いてない。見てるのが私だってことも。
彼は友達に呼ばれて、ああうんと言いながらまた歩き始めた。
私はまだじっと動けないまま、ガラスに映る彼を目で追いかけた。

うわ〜〜

恥かしさの頂点に立った時、友達と歩いていた彼がもう一度ショーウィンドウを見た。
「……」
ショーウィンドウには、女の子のほしがりそうな素敵なものが沢山入ってる。
彼は誰にあげるんだろう。
誰に何をあげたいと思ってみたのかな。

私の中に灯っていたろうそくはフッと消える。
残り火のような一抹の寂しさを抱えて私は「My only wish」を口ずさむ。
マッチ売りの少女のような夢を見る
それが私のクリスマスなのかもしれない。
2007.11.26

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ぼうっと空を見上げた。
空は灰色で、どんよりとして、朝だっていうのに暗いし、やる気ない様子で日が昇ったばかりなんだかこれから落ちるとこなんだかもはっきりしない。
裸の木が突き刺すように上に伸びて、暗い景色の街並みは冷たく空にとけこんでる。
変わらない日常。変わらない街。変わらない人。
毎日面白いことなんて何にもない。
だいたい同じ時間に家を出て、乗れた電車に乗って、決まった時間までに学校へ行って。
そればかりを繰り返す俺には、こういう停滞した季節はお似合いかもしれない。
微妙に寒いし。ノロノロ歩く足もポケットに突っ込んだ手もマフラーに埋めた口も、もう表に出るのはいやだっていってる。
改札で定期を出して、流れる人波へ。人が多くて自分のペースで進めないのもウザイ。早く行けよとか思うけど、その思念は先頭のやつらに伝わるわけもなく、とりあえず目の前のヤツの靴とかを蹴り飛ばすところをイメージしてこらえる。
ホームに上がった。
さっきよりも高い位置で重い景色を見下ろす。
やっぱり変わらない。
傘を持ってるヤツがいる。
マジ、今日雨ふんの? 聞いてねーし
電車が滑り込む。そのせいで起こった風が寒くて、また首をすくめる。
ドアが開く。人が降りる。乗る。出入り口に立つのが好きだけど、今日はもう陣取られてる。あーあ。仕方なしに少し向こうに行く。
どこを見てもつまらなそうな顔。朝のムスっとした空気。携帯いじるか新聞読むか音楽きいてるかむっつりしてるか寝てるか。つまんなそうな顔ばっか。
ずっと同じ方向を見てられなくて、視界に入る色んな人間を観察始めたとき、ちょっと目が止まった。
ドアにもたれかかって、窓の外をじっと眺める人。女の人。
綺麗ってほどでもなく、まあまあの顔。髪は綺麗にまとめてて、ニットとか冬っぽいアイテムをカラー使いで明るく着こなしてる。大学生…?
その人が気になったっていうより、その人がある瞬間窓の外の何かをただじっとすごく集中して追ってるのがわかったから、気になった。
その人は何かを目で探し、あるところで急に窓にはりついて、それを見てた。
その何かが後ろにいってしまっても、その女の人は見てた。
そんで、また元に戻ってふうと息をついてた。
ただそれだったけど、気になった。

電車はいつも適当だったけど、次の日はたまたま昨日と同じ時間のに乗れた。
やっぱりあの女の人がいて、昨日と同じことをしてた。
その次の日は遅れたけど、次の次の日は乗れたら、やっぱりいた。やっぱり同じことしてた。
一週間後くらいにもまたその女の人を見たら、その人が何を気にしているのかものすごく気になるようになった。

その人が窓の外を注視するタイミングを覚えてみる。
ここだ。
俺は自分も窓にへばりついてみたり、注目してみたりするようになった。でも何を見ていいのかわからない。
それでまた、翌日に同じことをしてみる。ちょっと早い時間。でもわからない。
同じ時間ならわかるのか。――いや、わからない。
それをしばらく繰り返してたけど、全然何も思い当たらずにもういいやって思ったある日、朝の電車はあの女の人が乗ってる時間だった。
もうあの人に振り回されるのはゴメンだ。俺は心の中で断言して、断固外見を拒否する。
が、あの女の人がその何かを見て「あ」って言うように口をあけて、ちょっぴり嬉しそうに唇をかみ締めたのを見てしまった。
嘘だろ。

やっと忘れようと思ったのに。
また外が気になったじゃないか。
ああくそ、と思いつつも、行きも帰りも、休みの日も一生懸命それを探す。
その辺りの景色は、普通の住宅街とフェンスと木とがあるだけ。ちょっとだけスプレーで書かれた落書きが線路内のコンクリートにあるくらい。それだろうか。あの人かあの人の知り合いが落書きしたっていうの?
ああもう、全然面白くないね。
わかんないって。
やめたやめた!!

今度こそそう決意して、見ないようにしてたのに。
外とか興味ないふりして、ずっとずっと長いこと本とか音楽とかに集中してたのに。
わかってしまった。
わかってしまったんだ。
それがわかったのはそれから1ヶ月も後だったんだけど。
その日、電車に乗ってまたその女の人が窓の外を見る姿がうっかり目に入ってしまって、目を逸らそうと思ったらわかっちゃったんだ。
桜が、咲いてた。
ただの木だと思ってたところは桜並木で、先っちょにちょっぴりだったけど、花が開いてた。
そして、自分も「あ」って思った瞬間、その女の人がすっごく嬉しそうに笑ったんだ。
そうか。桜が咲くのを待ってたんだ。
ちょっとずつ春に向かってた桜を、楽しみにしてたんだ。
なあんだ。そんだけかよ!
けどその笑顔が、じんわり広がるのを見て、まるで春がゆっくり訪れたみたいだと思った自分が、おかしかった。
なんて事のない顔、って思ってたのに、ああいう笑顔はいいな、って思った。
ああいう笑顔は見てて気持ちいいなって。
桜が咲いたのに気付いたの、俺のが早かったよな、とか。


桜がちょっぴり咲いてからの毎朝、俺は毎朝あの女の人を見るために、同じ時間に出る。遅れた時はちょっと走る。手は表に出てるし、口ははあはあ息をしてる。そして毎朝女の人が何を見て、何を楽しみにしてるか一緒に想像することが、妙にウキウキとさせるのを楽しんでる。
2008.01.09

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歩く。歩く。
学校に行く。
学校から帰る。
歩く。
横断歩道を
車道を
細い路地を
歩く。
すると彼女が駆け抜ける
僕の脇をすり抜けて、友達と
キャハハと笑いながら
すりぬける
その瞬間ちらりと僕を見る
そしてまた友達に目を合わせる
キャハハキャハハ
声は遠のく
でも僕の胸は
笑い声でいっぱい



走る。走る。
学校に向かう。
学校から出る。
走る。
仲のいい友達2人と
馬鹿話しながら
絶対に皆が通る道を
走る。
するとその先にはあの人が歩いている
静かにどこかを見ながら
私はその傍を
走る抜ける
友達を振り返るふりをして
あの人を盗み見る
パチパチパチ
あの人の視線に幸せが弾け飛ぶ
あの人の姿が小さくなる
でも私の胸は
あの人の視線でいっぱい
2008.02.04

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今日は風がひどく冷たいけど、お天気が良くてよかった。
今日この日までとってもユウウツだった。
だってどのお店もチョコチョコチョコレート。おまけにすごく高いし、値段下げるとなんかちょっとダサいような雰囲気だし。無理してあんな小さいのしか買えないんだったらやんなきゃいいじゃん。
別にケチってるわけじゃない。
でもさ。こんな世の中の女の子の半分が告白に走るような日に、あえて渡すのって、ちょっとどうかなって。
デパートはどこもかしこも女女女。
すごい怖い鬼の形相で人のこと突き飛ばして我先にショーケースの前に並んで大量に買ってく姿を見てたら、すんごくげんなりした。
あんなんでもらったチョコなんて、絶対呪われてるって。
あたしだったらもっとスマートにいきたい。
そう思うのにさ。
そのスマートな日はちっともやってこなくて。
ずるずるずるずる想いばっか引きずって。
世の中バレンタインで熱々ではしゃいでるのに
あたしはすごく冷めてて。
結局チョコレートを買うことができずに、チロルチョコの1つも買えないまま、この日を迎えて。
授業をサボって、こんな寂しい学校の屋上なんかに一人できちゃってさ。さぼんなら学校来なきゃいいのに。
バッカみたい。
ばかばかばか
風が冷たかった。
つまんなくて、ひとりぽっちで、寂しかった。
地上の熱は屋上まで届かないんだと思った。
お天気だけがせめてもの救いかな。
今日何組のカップルが誕生するのかな……
くだらない計算なんかした。
計算してたらまたあいつの顔がチラついた。
ああもう駄目だって柵に頭を埋めたとき、頭に何かがぶつかった。
「いた!」
何だろうと思って頭をさすりながら見渡したら、びっくりすることに地面にチョコレートの包みみたいなのが落ちてた。
え! なんで!?
チョコを買う勇気のないあたしに神様がくれたんだろうか
ゆっくりと手にするそれは、パッケージの上からも甘いいい匂いがするように思えた。
そうっと鼻に近づけてくんくんと嗅いでみた。やっぱりチョコの匂いがするような。
チョコだ。
多分チョコ。
神様があたしに届けてくれたチョコレートという名のチャンス。
じっと見つめてあたしは…
2008.02.14

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10

――Side Woman
急げ
急がなきゃ
ドライアーなんてあててる暇なんかない
鏡を見ながら髪の毛をひっつめる
化粧も日焼け止めとかで誤魔化す
女としても、社会人としても身なりだけは疎かにできないのに
それよりも何よりも優先したいことが
私を急がせる
1番手前のスーツを着込んで
昨日と同じかばんを引っつかむと
どうだ! と安普請の扉を押し開ける
息セキきって出たのに
でもそこには同じように茶色い木のドアを開けて
こっちを眺めてる男の姿が1人
むこうもスーツは着ているけど、どうみても急いだってわかる様子

「何その頭! そんな寝癖で行く気!?」

私は勝ったというように肩で息をつくと
誇らしげに胸をそらした。
頭に手を当てた相手は
私を指差して反論する

「パン持ったまま言うセリフか!」

確かに…
急ぐあまり朝食を部屋で食べてる余裕はなかった
そのままお互い数秒にらみ合い
そしてどちらともなく競歩で階段まで移動

「どいてよ!」
「そっちこそ!」

狭い階段をどっちが先に下りるかでもめながら
わあわあと押しあいへしあい
私と彼はいつもどっちが先に駅へ着くかで争ってる
同じアパートの住人
名前も年も職場も知らないけど
隣に住んでることだけは確か
いつの間にか
同時に扉を開けた時から
先を争うようになった
どっちが階段を先におりるか
どっちが狭い歩道の歩きやすい道を行くか
どっちが先に改札をくぐるか
抜かれたら抜き返す
抜き返されたらさらに抜き返す
足並みは早歩きへ
早歩きは急ぎ足へ
競歩選手みたいに腕振って追いかけっこしてたら
目が合った
バチバチと飛ぶ火花
それ以来優雅な朝の時間は
戦場へ
ちょっとでも早く出なきゃ
隣のあいつに負ける
優越感たっぷりの表情で
10メートル先から振り返られる
だから急げ 急げ
電車はお互い反対方向だから
駅までの15分間の勝負
無言のうちに何となくできたルール

1)最低限の身支度を抜かしてはいけない
2)扉は先に開けられたら負け
3)駅まで走ってはいけない

無意識に自分に課して
少しでも相手のアラを探して問い詰める
1)はちょっとばかしなあなあだけど
3)はきっちり守ってる
今のところ2)はいつも同時
どうにか1)を誤魔化して扉の時点で勝ちたいけど
扉を開けた時あいつがもし出てきてなかったら
勝ったとかざまあみろとか思うより
きっと不安を感じるような気がするから
わざと1)を厳密にする
早すぎにも遅すぎにもならないよう
調節する
駅までを争いながら
私は祈る
明日も同時に開きますように
2008.03.22


――Side Man
ドタン
バタン
聞こえてきた隣の派手な物音に目が覚める
ハッと飛び起きて時計を見た
しまった、もうそんな時間か
昨日は準備する前に寝落ちしてしまった
とにもかくにも洗面所に向かって
クリーニングしたてのシャツのビニールを引きちぎる
会社の始業時間には余裕だけど
それよりも何よりも優先したいことが
俺を急がせる
ネクタイを見ないで結び終えたら
玄関に置いたかばんを引っつかんで
一呼吸置く
聞き耳を立てて
隣の扉が開く音を待つ
タイミングを合わせて
押し開ける
今日も揃った
無事間に合ったことに安堵しつつも
顔には出さないよう気をつけないと

「何その頭! そんな寝癖で行く気!?」

彼女は肩で息をつきながら
誇らしげに胸をそらした。
頭の真後ろは見えないんだよ
だけど甘いぜと俺は指差して反論する

「パン持ったまま言うセリフか!」

彼女は生のパン1枚をかばんと反対の手につかんでた
どんだけ急いでたんだ
そのままお互い数秒にらみ合い
そしてどちらともなく競歩で階段まで移動

「どいてよ!」
「そっちこそ!」

狭い通路を突き飛ばすように進みながら
押しあいへしあいで階段に足を踏み出す
彼女はどうしても俺より先に駅へ着きたいらしい
同じアパートの住人
変なお隣さん
それまで顔の認識すらしてなかったのに
ある日を境に毎朝の競争相手
同時に扉を開けたら
駅までは真剣勝負しないとならない
どっちが階段を先におりるか
どっちが歩道の中を歩くか
どっちが先に改札をくぐるか
抜かれたら抜き返す
抜き返されたらさらに抜き返す
負けず嫌いの俺は煽られて
簡単に夢中になった
お互いむきになって
あれほど完璧だった俺の朝は
今やとんだ修羅場だ
だって待ち構えてないと
隣の彼女は毎日出る時間が早くなってる
俺が少しでも早く出たら
負けるもんかと翌日は時間短縮しかけてくる
だから急げ 急げ
繰り返してるうちに
何となくルールまで出来てた

1)扉を開けるところから勝負
2)階段の2段抜かしは禁止
3)本気走りは駄目

だって男が本気出せば勝つのは簡単
勝ったりしたら、翌日の彼女はもっとひどい有様
ご飯も食べずに飛び出すなんて
よほど負けたくないのだろうけど
それはそれで何か悲しい
彼女がこの争いをやめられないよう
俺は先や後に出るのを我慢する
一緒に出れば
駅までも一緒
少しでも勝負を引き伸ばすべく
勝ち負けは起こさない
同時に出て一緒に行く
彼女は気付いてないけれど
俺はもう1人で家を出ることはできない
いつの間にか俺は
1人で通いたくないなんて願ってる
2008.03.31