Home Sweet Home 98


 いつになく、ほけっとした表情で、手に抱えた小さな花束と袋とを持って歩く。
 頬が少々上気して、気がつくと照れ隠しに必死にくちびるをきゅっと結んでいる。
「ただいま…戻りました…」
 そうっとリビングへ入ると、灯りはついていたがここにはいなかったようで、部屋は無人だった。なんとはなしにほっと息をついて花を置く。

 今日の新年会は、いってみればサプライズパーティーだった。
 友人たちと集まって行った店は、確かに波好みの気安い雰囲気の洋風ダイニングで、飲み物や食べ物を注文して気兼ねなく寛いでいたところに、しかし、突然大きな歌声とケーキがやってきた。
「!?」
 ぽかんと見つめていると、なんとその頼みもしないホールケーキは波のテーブルにやってきたのである。
 恥ずかしいハッピーバースデーの歌に包まれて、自分の誕生日は確かにもうすぐだが、誰か他の人のことではないかと友人たちの顔を見渡した。
「波、お誕生日おめでとう〜!」
 まさかこんな風に祝ってもらえるとは思っていなかっただけに、嬉しさと気恥ずかしさにカァっと体が火照った。
(騙された…)
 だから王子は遠慮したのか。
 口々に告げられるおめでとうの言葉と、予想もしなかったプレゼントに、震えるのを押し隠すため小さく感謝の意をかえしながら、波はすごく幸せな気持ちになった……。

 そんなありがたい友人たちとの楽しいひとときを経て、帰ってきたところである。
 家に花瓶がないことを考慮してくれたのか、花束は籠のオアシスに生けられたものだった。このまま自分の部屋に飾ろうと思う。
 いわゆる女らしいとこなどなに1つないと思っている波だったが、花を見ていると、あたしにもそれっぽい趣味が残っていたのかななどとしみじみできる。
 花をもらって喜ばない人の方が少ないだろうが、自分には似合わないような気もしている分、もらうと、女扱いされているような気がして驚ける。むろん、女なのだから女扱いは当たり前なのだし、自分で男らしいとか男になりたいなどと認識しているわけではないが…。
 視線を転じれば、高価ですっきりとした生け花が部屋を飾っている。この島が頼んでくれている花も、波が女の子であることを充分意識しているように思われて、どことなく気恥ずかしい。当然、島にそういった意図がないことは、わかっていてもだ。でもこれが、波のために、波のためだけに、ここに飾られていることは確かである。
 何十分、そうやっていたのだろうか。帰って来て、風呂にも入らずに、ただぼうっと花をいじくりまわしていただけの自分に、飲み物を飲みにきた島が、呆れたような視線を寄越していたことは、声をかけられてから気づいた。
「また風邪をひきますよ」
 飛び上がるほど驚くと、島はその様子を一瞥してから冷蔵庫を開けた。
 島は風邪の心配しかしていないように思える。波は慌てて携帯の時間を見て、もう真夜中近いことを悟った。
 視界の中に、花と島が重なる。