Home Sweet Home 95


 島には朝のうちに、今日の夜は帰りが遅いことも言ってあって、彼は親でもないのだから、心配されるいわれもないのだが、いつの間にか保護者と被保護者のような気持ちを互いに抱いているような気がしてならない。
 どちらからともなく、明日の予定とか帰りの時間とか、口頭やメールで連絡し合っていて、予定してたより早く戻ったりすると、「早かったですね」なんてまるで夫婦のような会話をしてるのが、恥ずかしい……。

 これまで島とやり取りしたメールの数々(ほとんど業務連絡のような内容ばかりだったけれど)を、危険にも関わらずメモリに残している波は、徐々にレベルアップしていく島のメール内容を思い返して、ますますその気持ちを強めていく。
(こういうの、なんて言うのかな)
 いまどこ、なんて送って来ていた彼が、今日は僕も帰りが何時かわからないので戸締まり防犯をきちんとして寝ているように、などと長い文章を漢字入りで寄越すようになったのは立派だと思うが、内容はどうも波の尻をむずがゆくさせる。
 友人との待ち合わせのためカフェテリアで波がしばし物思いにふけっている時、王子と偶然鉢あわせたその日は、試験があらかた片付いて、親友に誘われていたみんなでの新年会に行く予定だった。それで波は島にいつもより帰りが遅くなることを告げていたのだが、島からこんなメールが届くと、早く帰って言われた通り寝ていた方がいいのだろうかなどと考えてしまう。
 しかし、ここの自販機で売っている変に甘ったるいジュースを好んで飲む王子は、ストローをくわえたまま、頼みもしないのに波の向かいの椅子に腰掛けたから、途端に波は、たった今の空気を凪ぎ払って剣呑な様子を見せる。
「泣いて帰ったのかと思った」
 波が嫌味を言うと、今日は女の子だけだからと会に呼んでもらえなかった王子のくちびるが尖る。
「いやいや、愛しい姫が帰る時間までここで待ってるよ、オレは」
「ちょっ…あんた馬鹿? さっさと帰りなさいよ。っていうか、それ、当てつけ?」
「当てつけ? だって彼女が夜遅くに1人で帰るなんて、危ないでしょ」
「あんたの方が危ない気がするけど」
 …まるで無意味な献身に、ただただ脱力した。
「もういいわよ、どうしても新年会来たいってんなら、来ればいいじゃない」
「珍しい。波が、そんなこと言うなんて」
「べつに。ノート借りたから。あんたみたいな人に、借りを作りっぱなしときたくないだけ」
 試験前にやむなく王子から借りたノートは、役に立たなかったとは言えなかった。
「ふうん」
 王子はにやにやと人の悪い笑みを見せていたが、すぐに手を振った。
「でも、今日はオレはいい。さっきのは嘘。帰る」
「……あんたの方が珍しい」
 彼女のことになると気味悪いほど行動的になる王子が黙って引き下がるなど滅多にないことである。そう波が訝って見ているとき、後ろの入り口から、すいと入ってくる人影が目に入った。
 島だ。
 いい子で寝てろとメールしてきた島先生だ。