Home Sweet Home 9


 波の目は、再び途方に暮れていた。
 今目の前にあるのは信じられないような豪奢な建物なのだ。

 あたし、何でこんなとこ来ちゃったんだろ

 車から降りながら波の目は彷徨っていた。辺りは高級車ばかりが目立つ地下駐車スペースである。
 壁にある扉らしきものの脇で島がカードキーをかざすと、左右に開いて突然エレベータが現れた。キーをかざさないと乗れない仕組みになっているようだ。乗り込んでからもキーをセンサーにあてるとエレベーターは動き始める。こんなゴージャスなマンションで、階数表記には「PH」と現われどんどん上がっていった。それがペントハウスだと気付いたのは到着した時だ。今の波は疲労と動揺著しく何も言えないが、一体どんな宇宙ステーションに連れて行かれるのかと内心びくつくのに必死だった。

 これって全部夢なんじゃない?

 波の目は更に釘付けになった。
 こんな部屋はモデルルームか広告だけだと思っていた。ここへ来るまでに聞いた話では「部屋は2つありますからご心配なく」という大変アバウトな内容だったから、2DKか1LDKくらいを想像していた。しかしどう少なく見積もっても100平米以上はあるだろう。エントランス床は総大理石。奥のリビングに行けば整然と、高価そうなインテリアで囲まれた素晴らしくシックでモダンな20畳ほどの部屋が広がっている。その視界の先に、リビングダイニングの一面を覆う大きなガラス窓、全部屋に通じてそうなルーフバルコニー、そして眼下に渡った都会の夜景が一望でき、広々とした空間が開けている。このバルコニーだけでも1人は楽々住める。むしろここだけで家賃が取れそうだ。無駄なものがないすっきりした部屋は、窓の外まで家からの地続きに見え、テンピュールのスリッパを履いた体が、無重力空間に飛ばされたみたいにふわふわとしている。
 男性らしい濃い目の建具と家具の合間から、夜のムーディーなライトだけがあちこちと灯り、まるで高級ホテルのスイートルームに来たようにしっとり落ち着いていた。少し高台にあるのだろう。超高層マンションでもないが、緑と都内の有名スポットの明かりとが見下ろせ、昼も夜も誰の視線も気にせず美しい景色を眺めることができそうだ。近所のお墓よりも低い、地べたに這いつくばったような自分の部屋からとは360度一回転しそうなほど視界が異なる。思わずぼうっと窓の外を見ていると、しゃっとウッドブラインドをおろされて波はびくりと現実に立ち返った。島が怒ったような表情をしている。
「言っておきますけど、泊めるだけですよ」
 どういう意味だろう……
 じわりじわりと嫌な汗が浮かび始めた。