Home Sweet Home 84


 しんとした音さえ響いてきそうである。
 学校と比べてみても、この家は人数と比率が合わず、無駄に広く淋しく見えてしまう。前の部屋の時は、狭い1Kの、寝室も居間もダイニングもすべて兼ねた部屋の小さなテーブルで、テレビを見ながら食べていたし、狭い分、ごちゃごちゃと音や家具が迫って、賑やかな印象をうけたのであまり気にならなかった。あの部屋と比べると、まさか人様の家で無作法をするわけにもいかず、遠くのテレビをつけるのがバカらしいようなこの家で、ぽつんとダイニングに腰掛けて食べる様は、借りてきた猫のようにわびしい。そのうち人が帰ってくる、と思わないと虚しい広さである。
 ところが島は、波が来るまでは、こんな大きな家を1人で使っていたという。
 波が去ればまた、元の暮らしに戻るのだが、そもそもこんな大きな家をどうして、たった1人で使おうと考えたのだろう。
 せめて、2人ならまだわかるけれど…。
(――いやいや、あれはお姉さんだったし)
 フォトフレームの君は、律だったのだから、波の考えることはすべて妄想だ。
 おそらく、金持ちというものは、現状に合ってるかどうかなどより、得られる価値を優先するのだろう、そうでなければ、波には理解できない。
 だって、律と島との間に口論……一方的な口論が起きたとき、確かに律が言ったではないか。島はモテなくて彼女もできないって。あの時は言い返したけれど、やっぱり島みたいな人が恋――
 波はぎくりと眺めていた皿から顔をあげた。
 いつの間にやら島が戻っていて、扉の把手を握ったまま、こちらを眺めていた。
 カッと、体が熱くなった。
「お、か」
「こんばんは」
「え――こんばんは……?」
 家の中でおかしな挨拶を繰り広げながら、波は急いで食べかけの皿を持って立ち上がる。島が食事するならどいた方がいいかなどと余計な気をまわしてみたのである。
「今空きましたから」
 キッチンに逃げ込もうとしたのだが、島も冷蔵庫に用があったようで、顔をまともに突き合わせるはめになった。
 冷蔵庫をのぞきこむ島を盗み見つつ、妙に緊張したまま、ぎくしゃくと食器を片付ける。
 実はなんとなく、これも全部夢なんじゃないかなどと考え始めていたのだが、当然気のせいなんかじゃなく、波は、1人じゃない生活を過ごしていた。その現実が急速に降りかかった。
 今日は学校に行ったことで、はっきりと外と内の違いを意識させられている。表じゃなにも変わりませんというように装いながら、そのじつ裏で島と一緒に住んでるなどという、とんでもない秘密を抱えていること。その事実を隠そう隠そうとした結果、かえって内での島との生活が強調されてしまったように思う。
 親友と恋人の関係とは全然違う、でも、男性と、1つ屋根の下で暮らしていることにはかわりなくて。
 これは、立派な、同棲ととられても、おかしくない事態であり――
 冷蔵庫を漁っていた島が急に波を見たので、またぎくりと固まった。
「それ、まだ残っているようですが、召し上がらないんですか」
 それ、と言いつつも視線を動かしもしない。島の真っ直ぐに射抜くような目が波を見ていた。
「……ああ…はい。なんかもう、お腹いっぱいなので、また明日食べます…」
 残った皿の中身を見て、お腹より胸がいっぱいなんだとは、言えなかった。
 島はいつも通りの表情で言った。
「不味かったとか」
「は?」
「味はありましたか」