Home Sweet Home 80


 どことなくひやりとさせられて、波は誤魔化し笑いした。
「あたしは――面倒くさいからずっとこっちにいた。切符代もばかにならないし…」
「えー、そしたら連絡とれれば遊べたってこと? 毎日なにしてたの」
「ずっと…バイトかな。みんなお正月は忙しいだろうなって思って、言わなかった。ごめん」
「そんなにバイトばっかでどうすんのー! いろいろ遊んどかないと、もったいないよ。彼氏も作った方がいいよ!」
「え、いいよ…」
「なに言ってんの。若さなんて今のうちだけなんだから。うちら賞味期限近いんだよ。二十歳になったら、直角に折れ曲がってくんだよ」
「そうそう、直角直角」
「直角、ってなにが折れんのよ。まあ携帯買わなくちゃだったし、ほら、お金が必要だったから」
 すると1人が急に、険しい表情になった。
「波、まさかお水のバイトとかしてないよね」
 お水?
 いったい何の話だと顔をしかめる。
「どうしてあたしが」
「や、なんか。実入りよくて、手っ取り早いからってやる子いるじゃん。別に、お水が絶対悪いってわけじゃないけど――あんま、波にはそういう方向行ってほしくないなって思って一応」
「そういえば急に新しい携帯になったし。新学期早々、全身おにゅうで来たよね」
 ――よく見てる
 別の意味で波はふたたび動揺した。
「1日だけとか思ってるうちに、普通のバイトの給料じゃばかばかしくなって、気づいたら学校辞めてた、なんてやだよ」
「…まさか。あたしは喋りたくもないやつに笑顔でお酌なんて、無理だから」
 一様に疑わしそうな顔をしてる面々に、波はいつになく歯切れ悪く返事した。少なくともお水はやってない。だが収入源がおかしくないかと問われればそこは否定できない。否応なしに持ち物はすべて新しくなってしまったし、携帯は分不相応な値段だったろう。
 ゴージャスな島に接してると忘れがちな、普通の学生の感覚が甦る。そうだ、全身おにゅうなんてちょっと不自然だった。島という魔法使いが現れて、シンデレラにされた気分なので、持ち物全てに島というタグがついてないかどきどきとしてしまう。
 秘密は黙ってればいいことだと思ったが、日常をひとつも語れないというのは案外難しいことらしい。

 その場はどうにか話題を逸らして、お昼休みになり、波と親友は学食に向かった。そこで親友の彼氏が待っており、3人で食べることになっている。
 学食の入り口付近ですぐに、小生意気な顔をした男の姿が目についた。
 ――うわ、あの顔
 この男は、ひとりのときはイモか石ころばかりの世界を眺めてましたという顔のくせに、親友が笑顔を向けると、すぐに腹立たしいほど甘ったるいものへと変えるウザ男だ。年が明けても王子スマイルは健在か…、と波は目の前の笑顔に少々うんざりして顔を背けた。やはり、妙に整った顔を眺めていると背筋がむずがゆくなるのは変わらない。せめて仏頂面のままでいてくれればいいのに、甘い顔がますます甘い顔していると、こっちも糖分をとらなきゃやってられなくなりそうだ。――とそこまで考えて、あ、なるほど、島の糖分補給タイムの重要性はこういうことだったのかと、今頃になって身にしみてくる。
「ああ、波。ハッピーニューイヤー」
「どうも」
 わざとぶっきらぼうに返事したが、相手は気にした風もなく、見せつけるように恋人の手を取ろうとした。すかさず親友がその手から逃げ頬を赤くしたのが、なんとはなしに面白くなかった。
「あのね、波ったら携帯、最新機種持ってるんだよ。壊れて変えたんだって!」
 慌てて話題をすりかえる彼女の様子に、自分はこの2人のお邪魔ものなのだろうかなどと、これまで欠片も思ったことのないやっかみを思い浮かべてみる。
 王子が器用に眉を動かして言った。

「へえ。悪い男にでもひっかかったの」