Home Sweet Home 73


 徐々に意識が浮上して、波の目が開いた時「だるいな」と思った。
 ブラインドから漏れる光に体が反応しようとしてるけれど、節々が痛いし、気怠い。
 無理に立ち上がってみるとくらくらとした。
(やばい、風邪ひいたかも)
 額に手で触れてみて、まだ熱はそんなにないかな、と判断する。悪寒が少しあった。喉もつかえたように声が出し辛い。
(ああ、昨日のあの不機嫌はこれのせいだった)
 なんとなく思い当たって、波は溜め息を漏らした。風邪をひくと妙に駄々を捏ねたくなる癖がある。或いは意固地になると言った方がいいのか。人一倍努力せねばという気持ちになるらしい。大学受験の時がそうだった。島には悪いことをしたと反省する。
 いっぽうで、この意固地が正直に島へ気持ちをぶつけることを可能にしたと考えると、複雑でもある。
 パジャマの上に上着を羽織って、のろのろと体を引きずるようにリビングへと向かった。
 元気のあるうちに粥でも作っておけば後が楽だろう。小鍋に水を用意して、米を出し緩慢な動作で研ぎ始める。その動きだけで体が痛い。放っておけば悪化しそうだと波は危惧した。薬はあるのだろうか、後で島に聞かねば――いや、自分で買いに行った方がいい。
 蛇口からの冷たい水にぼうっとしていると、奥から音がして身支度を整えた島が颯爽と入って来た。といっても、外観が颯爽という雰囲気なだけで、もちろん中身はいつもの島なので、パジャマにフリースという出で立ちで米を研ぐというよりかき混ぜている波にぎくりとしたのだった。
「あ、おはようございます」
「おはようございます……」
「昨日はすみませんでした。頭悪いことしちゃって恥ずかしいです。今日はあたしちょっと風邪っぽいのでうつるといけないからあんまり近寄らないでください。あと、マスクあれば頂きたいんですけど。そうだ、先生お粥でよければ召し上がりますか? 作り始めたら、ちょっと分量多かったかもで…でもこんな病人食じゃ嫌ですよね。だってすごくマズそう……」
 自分でもなにをぶつぶつ喋ってるのかわからないままにしていると突然島に遮られた。正確には米をいじくりまわしていた腕を島につかまれたのだ。なんだろうと振り向こうとしたが体が痛くてうまくできなかった。成り行きに任せるがままにしてると、腕を動かされ米のついた手を流水で洗い流されて、タオルでくるまれた。波の白い手はよく見ればひどく赤くなっている。冷たい水をずっと浴びていたせいだ。その様子を他人事のように眺めていると、今度は波の部屋の前まで引いて来られ、扉が開けられた。島は中を見ないように、押し込むように波の腕をぐいと放した。
「寝室はここです」
「…知ってますけど」
「では何をすべきはわかりますね」