Home Sweet Home 71


 探してくれて、と小さく問うと、大きな溜め息が返ってくる。
『あなたに振り回されましたからね。図書館にいると言っていたのに、補導されてたら冗談じゃ済みませんから』
 図書館はあたしのせいじゃないです……なんて負け惜しみは耳に届かないようだ。島はただ『いた』という忌々しそうな声のみ残して通話を勝手に切った。
「えっ」
 慌てた波が見回すと、不機嫌の最大級ともいうべきむっつりとした顔の島が、寒そうにすたすたと歩いてきた。
 そんなものは気づかないふりをしてうずくまったが、相手は見つけていたから電話を切ったのだ。無意味だった。
 目の前に立つ気配がして、顔をうつむけていた波に人肌のような温かさが――風よけになったためか、それとも、1人でいるのと2人というのは、とくに触れ合っていなくても暖かいのか――ゆっくりとしみてくる。
「早くしてください。どうするんですか? あなたも決めたものだと思っていましたが、そうでなかったのなら僕のしてることに意味はない。今ここではっきりさせましょう。僕の家に帰るかここに残るか」
「……」
 島の声にはやっぱり優しさの影も形もない。苦々しげな疲労を隠そうともしてない。それなのに島は波を探して迎えに来てくれた。このギャップが波をひたすら混乱させる。島の気持ちをわからなくする。島はやはりずっとずっと年上で、波などに推し量れるべくもないのかもしれない。だから今島が告げていることも、いったいどんな考えで感情で、なのかはわからない。
 島の気持ちがわからない以上、波は動けない。
 と、そう、波は混乱したままに惑う。
「まったく、頑固で意地っ張りだとは思っていましたがどれだけ甘ったれなんですか」
「!?」
 思わず見上げた島の顔に変化はなかった。ゆらゆらと視線がぶれて、ふつふつと感情がわく。今先生あたしのこと頑固で意地っ張りって言った。おまけに甘ったれ、だ、なんて
「かわいいかわいいと頭を撫でてもらいたいんですか」
「お金のこと以外で先生に甘えてるつもりなんかありません!」
 自負から口をついて出たが、島は容赦なかった。
「これのどこが違うと言えます? 僕は最初に言ったはずです、決めたことだと。前に進みなさいとも言ったはずです。しかしあなたは同じことを繰り返す」
 反論が出なかった。自分のしていることがただ児戯にも等しいわがままだと言われてるのだとはっきり伝わって、どう返しても意味がないと思った。だけどあたしは、どうして、こんな――――
「最初の時だってそうだ。あなたは逃げると見せかけて、追いかけてくるのを待っている。あなたは誰かに自分の窮状を救って欲しくて、反論してみせる。あなたが僕に歯向かうのは、ただ僕に甘えたいからだ。僕ならばなにかしらの回答を出せると知っているから、あなたはこんな手間のかかることをしてみせる」
 途方もなく大きな感情が押し寄せて、波を前へと押し流す。違う、そんなことない、あたしは甘ったれなんかじゃない。別に誰に頼らなくたっていい。ひとりだって寂しくない。反論なんて、あたしの方が正論だ。誰も追いかけてきてくれなんて頼んでない――
 ――本当に、そうなの?
 この無言こそが、けして否定できるものでないと、自分で認めているようなものだった。
「帰るのですか、残るのですか」
「先生に、迷惑かけたいわけじゃ…」
「僕は決めたと言ったはずです、何度も」
「あ……」