Home Sweet Home 68


 帰ることができて、安心できて…。
 なんでもいいからそんなものが欲しくて、こんな風に落ち込んでいるのかもしれない。
 くじけるほどの脆い感情なんて持ち合わせてないと強がっていたのに、上滑りしてく文字を追うのをやめれば、ただ白いノートにシャーペンの先が当たった点々ばかりが増えていた。
[もし]
 考えを無意識に追ううち、意識するよりも先にノートには頭の中の文字が書かれていく。
[もし 電話が かかってこなかったら]
 自分で書いているくせに、まるでお告げといわんばかりにペンは滑り波の手を震わせる。
[このままずっと独り]
[誰からも切り離されて 家もなく 巣もなく]
[私は ひとり]
 ポキッと芯が折れ、波はノートにうつぶせた。
 帰りたい。
 どこかに。
 自分の巣に。
 例えどんなにひどい場所でも虐められてもいいから、帰りたい。
 家に帰りたい。
 あたしの家に。
 そう願いながら思い浮かぶのはどうしても島の家で、かつて己の城だったアパートでも、実家でもなく、もっとも手近でなおかつ優遇された場所であることに、イライラと首を振る。
 依存してる自分はみっともなかった。
 そう遠くないうちに出てくことが決まっているところだとて、自分にはもう大切な巣のような感情を持っていることが辛かった。
 また新しい巣を作ればいいだけのことなのに、それとは別の感情がだらだらと自分を甘えた方向に持ってかせる。
 なにに惹かれてるのだろう。あの豪華さか。環境の良さか。寂しいだけかもしれない。ひとりぽっちで頑張ることが。島みたいな人間でもいてくれることに安心してしまうのか。
 ぶるりと寒気に震えた。店内は暖房がきいているはずなのに寒さに震え、指先が冷たかった。
 気怠くて眠い。
 もう寝てしまおうか。
 眠れば夢から冷めて、違う展開になっているかもしれない。起きた時には島の家など知らず前の家で生活してるかも。それだったらいいな。そうしたら少なくともこの変な気持ちからは逃れてそれなりにやってるだろう。眠い。体が重い。動かない。歩きたくない。探したくない。自分の巣なんてどうせ見つからない。
 寝てしまおう。
 寝て忘れてしまおう。
 このまま眠ってしまおう……。
「!」
 ブルルル、という着信の揺れでドキリと目が開いた。
 携帯が光り揺れている。さっきまでと違って急に胸が逸っている自分を脇に置いて、そっと目にする。着信は当然島からで、波はなんだか泣きたいような気持ちになった。
「……」
 電話がかかってきた。
 すぐに応えようとして、はたとその指を止めた。
 …これはなんの連絡なのだろう、と。
 戻ってもいいという意味か、それとも…。
 期待ばかりする自分と、ちょっと疲れていた己の心が絡み合い、素直に電話に出る気になれなかった。