Home Sweet Home 64


 嵐の去った後、ぐったりとソファにもたれて波はひとり考えにふけっていた。
(なんなのよ、あの姉は……)
 どうやら律には夫なるものが存在するらしいが、なにがどうなって彼女に恋をしたのか気持ちはわからない。しかしながら、彼女を御しきれてないことだけは想像がついた。
(いいや弟も弟だ)
 思い出せば出すほど信じ難く、謝りはしてもやっぱり自分は間違っていないような思いにかられた。そう、律には島を味方するように言ったものの、やはり島が無言で言うなりになっていることが解せないでいる。ムカついてもなんでもたった1人の姉(まさかあんなのが他に何人も控えているとは想像したくなかった)だろうし、大事な人ではあるだろう。でもそれとこれとは話が別だと思う。姉弟だからとて下が我慢することはないし、あれだけの誹謗中傷を黙って聞いてるなんて姉の暴虐を助長するだけでしかないだろう。そもそも普通の人間にはとうてい無理なことを押しつけられている。それを容認しておきながら、同時に島が孤独を願って独立したのだとしたら、島はただ逃げてるだけということになる。それじゃあ問題の解決にはならない。
 ともかく、島の複雑な家族関係の一端を垣間見て、波の気持ちも複雑であった。家族の間の微妙な空気は苦手だ。そしてそういう問題を抱えている島がなぜ、波のような他人を置いてくれているのかますますわからなくなった。波の存在が見つかれば律にあることないこと言われるのは目に見えている。波を緩衝剤や盾にしようとしたとは考えられない。むしろ逆効果であることがわかりきっている。それともまさか、波に律のような一面を見つけて島の中に逆らえない恐怖の鎖をつないでしまったのだろうか。そんな。自分の中に律のような部分があるとは信じたくなかった。確かに、少々口うるさいことを言ってしまった覚えはある。が、それなりに立場を弁えて、島の邪魔をしないようにしてきたつもりであった。あの姉と一緒になんかされたくない。
 でもそれが違っていたら。
 ぎくり、と嫌な考えが流れ込んできた。
 自分が信じていたもの、自分が正しいとしてきたこと、そしてそれらによってかえってきた島の反応全てが波の虚像でしかなかったとしたら。
 たとえば律はどうだ。おそらく、彼女は己の行動を正しいと信じ、相手のためにしていると思っている。それが一方的であるとも気づかないまま。それと自分とにどんな差があるか、波には言えない。
 知らず知らず心に驕慢(きょうまん)やゆるみが出ていたとしたら、恐ろしいことでもある。その気持ちのままに島にぶつけ、勝手にわかったような気になってたとするならば、島からしたらいい迷惑だったろう。
 いずれにせよ、今の波の心情としては、島が言い返さないことが悔しいとしか言えない。
 波は島のことがわからないなりに、わかろうとしていたから。
 そしてようやく、互いの妥協点とか共感できる部分を見つけて、いいとこあるって思って。それを全否定されたような、自分が父親とうまくいっていないのを目の当たりにしたような…。
(いつだったか、あたしは思った。先生とあたしは、どこか似てるって。それで、人に対して妙な線引きしちゃうんだって。冷たいとこがあるかもしれない。だけどその底では悪い人なんかじゃない。間違ったことはしてないって、信じてた。でも、先生が否定しなければ、間違いを認めてると同じになってしまう…)
 いや、違う。
(だってあたしは間違ってなんかいないし、それとこれとは全く別だもの)
 波が島にどう思われてようと、島が誰に言い返せなくても、他人のこともどうだっていいのだ。自分には関係ないのだから。
 だるさと苛立ちを打ち消すように、勉強に打ち込もうと首を振った。