Home Sweet Home 61


 見えないものが爆発するような不安がさっと過ぎたとき、律の口が開いた。
「私はいつでもあなたのことを考えてあげてるのよ」
 再び島は一方的に批判を受け、無言になっている。見ている波の方が我慢できずに苛ついてきた。なんで言い返さないのだろう。律は次から次へと女性に対する男性のあり方について意見し、この間島から届いたお花がちょっと色味が暗くて地味だったとか、年末もお正月1番にも連絡くれなかったとか、もっと気を利かして面白い話をしなさいよとか注文をつけてる。美味しいものを食べているのに波は、すっかり気分が底辺へと転がっていくのを感じた。
 と、律がすっくと立ち上がってどこかへ行った。その後ばたんばたんとドアが開け閉めされる音がする。トイレでも探してるのか、いやなんだか悪い予感がすると波が心配していると、島は、ちらと音のする方に視線を投げた。が、別に何も言わずにいた。律はすぐに戻ってきた。最後に書斎を覗いているのを見て確信した。まさか――
 律は鼻息荒く勝ち誇った。
「確かに、あの部屋じゃ恋人は呼べないわね! 幸嶋さんは彼女じゃない」
 波は青ざめるような思いでその言葉を聞いた。
 男兄弟はいないにしろ波にも姉はいるし、それなりに兄弟関係を理解しているつもりである。しかしこの律という人はちょっと、いやだいぶ行き過ぎだ。詮索が半端なく、弟とはいえ人の家の室内を物色したのだ。年4回もそんなことをしてるのだろうか。そのうえ島のことを駄目出しばかりして。島はそれを別に咎め立てもしないどころか、黙ってやり過ごそうとしてるのもおかしくないか。なんだか全てに対してふつふつとした怒りがわいてきた。
「ねえ智晴さん、あなたたちの今の関係がどうだか知らないけれど、少しは彼女の前でいい格好見せるとかしておきなさいよ。幸嶋さんは若いし、それこそあなたのいい先生になるじゃない。少しは色気を出して、気がなくても彼女にアタックしてみるとか、いいムードを作るとか、なんとかする男気を見せないと一生――」
「それ以上はやめてください」
 気づくと波は口に出して叫んでいた。
 ギョッとする2人を前に語気荒くまくしたてる。波の中にかつて経験した苦いスイッチが入って、滑り出す感情を止められなかった。
「気がなくてもアタックなんて最低なこと、女性であるお姉さんが家族に勧めないで下さい。そんなの男気じゃない。最低の人間のすることです。そもそも先生は探せば優しいとこもあるし、意外に親切だし、それなりに一生懸命です。感謝しこそすれ文句なんてそんなありません。お姉さんが言えば言うほど先生は縮こまっちゃうのがわからないんですか。紅茶なんて美味しければなんだっていいじゃないですか。このお菓子だってチョコレートだってお姉さんのために出したんじゃないですか。悪いところばかりじゃなくて良いことをたくさん言ってあげてくださいよ、だから先生こんなひねくれちゃうんですよ。お姉さんは先生の保護者じゃないし、先生は赤ちゃんじゃないんだから、だからもうこれ以上口出さずに見守ってあげたらどうですか。だいたい先生とあたしが万に一つもない可能性でいいムードになったとしても、お姉さんがそうやって突然やってきてチェックすると思ったら、することもできません!」
 島の姉も島も驚いたように波を見ている。波は言ってからあ、ちょっと変なことまで口走ったかなと焦った。しかし事実は事実だ。島のこの性格も変な習慣も、姉がその一端を担っていると思った。島が変なのは律のせいだ。それを律が責めるのは筋違いだろう。もうここまできたら、島がどんなふうに生きようと好きにさせてやればいいじゃないか。少なくとも波は島のお陰で寝ることも食べることも可能になってる。だいたい気がなくても波を誘えとはどれだけ失礼なのだ。
 だが、律の表情がみるみる変化してくのを見て、波ははたと気付いた。

 いけない、あたしったら、宿主に権力を持つお姉様に向かって生意気な口をきいて!