Home Sweet Home 60


「今の見たでしょ! あんな態度だから恋人ができないのよ! センスないし、お部屋だっていつも散らかりっぱなしだし、考え事ばっかりで話は聞かないし。智晴さんは努力しないとモテないの。実家にいた頃は私が毎日サポートしてあげてたからどうにかなってたって、そこら辺理解してるのかしら。自分じゃなにもできないくせにいつの間にかマンション買っちゃって出て行っちゃったんだから。ここを決めるのだって私にひとこと言って意見を伺うのが筋ってものじゃない。おまけに合鍵もくれなくて、私も主人がいて忙しいから年に4回くらいしか来てあげられないけど、まさかお正月にまで戻って来ないなんて呆れたわよ。ママは笑って『大学が忙しいのよ』なんて言ってるけど、結局は智晴さんに甘すぎるんだわ。それを智晴さんは、どれだけ寂しがってるかわかっていないんだから。だから私がこうしてチェックしてあげようとしてるのに、あの態度は失礼しちゃうでしょ。特に服のセンスはひどくて、お話にならないの。奥さんになる人が可哀想なくらい」
 痛烈な言葉の数々を受けて、波の目が激しく瞬いた。
 毎日サポート? 年に4回? 島のセンスがない? モテない?
 洋服は確かにそこまで小細工のきいた上級おしゃれって感じでもなく、まあ無難といえばそんな路線だが、悪いってほどではない。なんと言うか隙とか遊び心がない程度だ。むしろそこら辺の同年代の男性よりは気を遣ってる感じを受けていた。それに家の中はモデルルームのようで、非の打ち所がない。お金持ちから見たらそれも型に嵌まったとか言えるかもしれないにせよ、一般人なら何も言うまい。生活もリッチで、確かにモテないっちゃモテないのも、島にその気がないからであって、その気を出せば(長続きするかは置いといて)ものすごいモテると思うのは違うのか。
 多分聞こえていたであろう中傷を全て受け流した島が今度は菓子をトレーで運んできた。
 やっぱりお手製のお菓子が載っている。少し前に焼いてたクッキーとパウンドケーキだ。今日は蜂蜜とくるみが添えられてる。こないだは蜂蜜ではなくホイップとミントがかかってて、島の気遣いとこだわりが出てる。買ってきたらしいチョコレートもあるし、いつもより随分盛り沢山だ。それらをテーブルにセットして、ようやく島は腰を落ち着ける。
 律との会話に気詰まりを覚えていた波は、3人揃うと少しホッとして、場を誤魔化そうとケーキに手をつけた。すると律もいったんはケーキに目を留め舌鋒を止めた。ケーキは焼いてから日を置いて、さらにしっとりと馴染んで美味しかった。先生なんかやめて、カフェ出したら絶対儲かるのになーと味わっていると、紅茶をひと口飲んだ律があら、と眉をしかめた。
「これ、キャンディーでしょう。ヌワラエリヤの方が良かったんじゃないの」
 島がびくりとしたのを見た。意味不明の横文字は紅茶の品種のことかなと思ったものの、そんなに違和感を感じるほどの違いがあるのかとカップを眺め首を傾げる。これまで庶民の味方の黄色いパックティーで過ごしていただけに、島が出すお茶は全部美味しいとしか思っていなかった。細かくどの種類がいいなんて、考えたこともなかった。
「せっかくのお菓子がもったいないわ。それに紅茶にチョコレートを出すなんて、おかしいでしょ」
 律が断言すると、島はいつもの無表情に皺を寄せただけで黙っている。
「そういう細かい気遣いができないから、教えてあげてるのに。お菓子が作れるようになったのは、誰のお陰だと思ってるの」
「……」
「ああ、このケーキはまずまずね。でもお茶で台無しよ。ああもったいない。そうよね波さん!」
「えっ…」
「智晴さんはそういう、ちょっとした機微に欠けるのよね〜。波さんどう思う? これだからきっと誰もお嫁に来てくれないのね〜」
 一瞬だけ、律と島の間に緊張が走ったように見えた。