Home Sweet Home 54


「明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
「本年もよろしくお願いします」
「本年も…も…?」
「とりあえずの意味で!」
「……よろしくお願いします」
 なんでそういちいち細かい言葉尻にひっかかるのだろう。波は年明け早々に憮然とさせられながら、島との挨拶を済ませた。
 正月朔日、元旦。島家の広いリビングルームにて挨拶を済ませると、さあささやかなお節を食べようとした波とは逆に、島はごそごそと袖を漁った。島はお元日だからと、きちんと着物に羽織を着ていて、安っぽい洋服の波を居たたまれなくしている。空気の読めなさは今年も健在ということだ。まあ今年とは言っても去年は数時間前なのだから、変わるはずもないかと達観してはいるが。
 島はもぞりと袖から手を出した。
「ではこれを」
「――!?」
 島が取り出したものを見て波は跳び上がるほど驚いた。
 これってポチ袋じゃない!?
「ちょっ…先生、あの、これは…」
「お正月にはお年玉。当然でしょう」
 なぜ縁もゆかりもない波に、親戚のおじさんよろしく島がお年玉を与えるのか。
「いえ、あたし、先生に借金抱えてる身ですし、その、親戚の子じゃありませんので…」
「正月は男性が身近な女性にお年玉をあげるものではないんですか」
「――どこの国の風俗ですかそれは」
 意味不明の慣習を押し付ける島に頭痛を感じつつも、波はそっとそのポチ袋を押し返す。
「島王国では当たり前なのかもしれませんが、あたしにこれは結構です。もしどうしてもあげたいのであれば、恵まれない人に寄付でもしてください」
「幸嶋さんは充分恵まれない人だと思いますが」
「っ…」
 本気で殴ってやろうかと思うほどに聞こえるのだが。
「…あたしは恵まれています。こうして食べるものも住むところも――とりあえずですが、ありますから」
「そうですか」
 島はまだあげたそうな顔をしていたが、波はそそくさと食卓についた。殺伐と食事が始まる。
「あたし、この後ちょっと出かけてきますね」
「はい」
「初詣に行ってきます」
「…是非そうしなさい!」
 なぜ急にそんなに力強く後押ししたのかも不明だが、島はそうだそれがいいなどと頷いて、自分も行っていいかなどと言い出した。
 年始早々やっぱりよくわからない人間だ。だが表情は硬いものの大変行きたそうな様子に、波はま、いっかなどと思いつつ許してやった。クリスマスにこだわる幸嶋さんはクリスチャンかと思っていましたが多宗教だったんですね、という言葉は無視しておいた。