Home Sweet Home 50


 こうして波の作った食事を向かい合って食べるのは初めてのことであり、そのせいか、普段は動じない波もいささか緊張気味である。
 メニューは精一杯背伸びして作ったパスタジェノベーゼ(瓶詰めソース和え)と人参サラダだけの簡単なもので、それなりに見栄えは持たせたつもりだ。一応気にして見守っていると、島は無言で食べ始め、そのままなにも喋らずにただ黙々と口に運び続けた。お世辞を期待していたわけではないが、本当に無言だった。会話する糸口どころか努力さえ無駄と感じるその姿に、もしや人参嫌いだったかなとかどうでもいいことを考えてみる。徐々に眉間の皺が深くなっているような。好き嫌いやいつもなにを食べてるのかを、もっとリサーチしとくんだった。これじゃ誘った自分が愚か者みたいだ。
 ハラハラしながらどうしたもんかとしてるうちに、島は食べ終えてしまった。綺麗に完食したので味は大丈夫っぽいと安堵したのも束の間、島はムスっと口を閉じたまま、立ち上がる。その顔が不機嫌そのものといった表情なのに波は慌てた。やっぱり料理が気に入らなくて機嫌が悪くなったとか? いくら失礼な人とは言えそこまでではないだろうと高をくくっていると、なんと島は食器を食洗機に入れながら「うう〜」と口元を手で押さえ、さっさと部屋を出て行ってしまったではないか。

 え、嘘!

 さすがに食べた後くらい『ご馳走様』とかなんか言うかと思ったのに、あろうことかマズイもの無理に食べて気持ち悪いですというジェスチャーが出てしまった。もう年末どころじゃない。失礼を働いてしまったかもしれない。それはそれでムカつくけど、でもあれは尋常じゃなかった。怒りよりもなんだかショックの方が大きくて呆然としてると、急にドタドタと足音が近づいてリビングの戸が開く。反射的に振り返ると、困ったように眉間を寄せた島が「あー…」とぶっきらぼうな声を出す。
 よもや胃薬買って来いとか言うんじゃないだろうな。
「…なにか」
「すみません、今書いてる論文のことで頭がいっぱいで。食事していたことを失念していました。ご馳走様です。大変結構でした。驚きですね、普通に食べられる代物だった」
 それだけ言って島はそそくさと戻った。波は目を白黒させた。
 ――普通に食べられる代物だった…って…
 なんじゃあそりゃああ!? と叫ぼうかと思ったが。

 っぷ。
 くくくくく

 急におかしくなって、波はひとり笑ってしまった。結局のところ、島は“失念して”いてわけもわからず食べてたのだ。そうだ。普段から自分がなにやってたかなんて忘れて、あちこちつけっ放しの人なのだから。
 もういいや。島の性格を思えば上等な褒め言葉なのだろう。しかも島はそれをわざわざ言いに戻ってきた。ちゃんとご馳走様も言ってくれた。もうそれだけでスッきりとした気持ちだった。無理に会話などしなくとも、それでいいのだ。

 じゃあそんな忙しい先生のためにコーヒー作っておいてあげよっかなあ

 現金にも波は機嫌を良くした。