Home Sweet Home 5


 警察の事情聴取を受け終わると、外は夜もすっかり更けていた。寒空の下、今日買った物だけが生き残って、これらと共に歩く夜道はひどく虚しい。お昼から何も食べていないし、夜になって更に冷えてきた空気が薄いコートを刺すように抜けていく。
 必要以上におろさないため持ち歩かないようにしていたキャッシュカードまで消えたのは予想外の痛さだ。財布の中にあるのは小学生の小遣い以下のお金だけ。こんなんじゃどんな安いホテルだって泊まれない。今日買った物を物々交換で出してみたらどんな反応返されるだろうか。
 東京で骨をうずめる! と田舎を飛び出してきた波に、頼れる親戚などいなかった。いやむしろ、このことがばれたら絶対帰って来いと言われるに決まってる。波は青ざめた。
(絶対にいや!)
 最悪なのが、今日波は携帯電話も忘れていったということだ。
 当然携帯は半焦げでびしょびしょに濡れて完全にメモリが逝っていた。万が一のためのアドレス帳の入ったメディアも同様だ。こんな日のこんな時間じゃ誰も出てくれるわけないだろうけど、全てのメモリが永久に消えてしまっては元も子もない。この危機的状況の中無駄なお金を使うわけにもいかず、波は賢いと言われるその頭脳で考えに考え、通学定期である程度行けてそう遠くない友達1人の家に行ってみることにした。彼女は大学に入ってすぐ親友になった子だ。きっと同情してくれるだろう。波は算段をつけると、急いで電車に乗った。グズグズしていたら終電もなくなってしまう。幸い定期券に若干のお金はチャージされてる。
 イブイブの夜に、大荷物を抱えて夜道を行く姿は自分の目から見てもかなり滑稽に映っている。波はサンタクロースがなぜ夜中にプレゼントを配るのかわかった気がした。友人宅に着くとかなり期待して呼び鈴を押してみた。暫しの無音。音が鳴っていないのかと何度か続けて押すが、やはり反応がないので、今度はドアを叩いてみる。

 ドンドンドン

 泊めてお願い! との念をこめて暫く待ってみる。が、返答はない。こちらもそう簡単には引き下がれないともう一度トライする。
 今度はさっきより激しく。

 ドンドンドンドン!

 が、何度呼びかけてドアを叩いても誰も出てこない。
 なんで!?
 あまり夜の夜中に女が1人、人の家のドアを叩き続けるのはみっともない。
 ――そういえばあの子にはウザったい男が出来たんだっけ。
 波はふいに思い出して自分を呪った。何を隠そうそのウザい色男とくっつけるように仕向けてしまったのは自分なのだ。波は傍目に分かるほど肩を落とすと、荷物を持った手を握りしめる。
 腹立たしいことこの上ない。
 世間じゃクリスマスだなんだって彼氏といちゃこらしてるくせに、どうしてお金も彼氏もない自分ばっかりこんな目に遭うのか。
 ――クリスマスにあんたみたいな若い子が家にいると思わないでしょ。つかあんた独り?
と、事情聴取の際いらぬことを言った警官の足を、帰り際、誤ったふりして思い切り踏んづけてやったっけ。波は思い出して悔しがりながらも、それにしてもショックのあまりの大きさと寒さに歯噛みした。
(明日からどうやって生きていこう…)