Home Sweet Home 47


 陽の下で見る我が家は、島のマンションを知った後だと殊更に酷く見えた。
「……」
 半分焼け焦げたのを抜きにしてもかなりボロの部類に入るアパートを見た島は、初めて目にする物であるかのように胡散臭い目つきでじろじろと眺め回している。廃墟のような元自分の部屋の前まで来ると、波は少しだけ悲しくなった。辛うじて開け閉めできる扉をくぐると、家の中も外もないぐちゃぐちゃの室内を土足のまま歩く。靴が家財を踏みつけるじゃりじゃりとした音が響く。
「うわ…」
 何回も見たけど、何回見ても驚ける。様々な物の焦げた匂いが鼻を突いて、壁紙がめくれたり陶器が割れたり、ここに自分が住んでたなんて到底信じられない有様だ。元の状態を思い出すことすらためらわれる。玄関口の辺りで、島が目を瞠っていた。
「本当にここに住んでたんですか」
「あたしも信じられませんでした、火事ってやっぱりスゴイですよね…」
 しかし島はあっさり否定する。
「そうではなくて、この狭い掘っ立て小屋に人が住んでいたのか、って意味です」
「〜〜〜人間住めば都ですから」
 島がそうですかと目を細めたのが、余計に波の癪に障った。どうせ貧乏人の暮らしなんて先生にはわかんないのよ! ちょっと人の良さそうなセリフ吐いてついてきたくせに、結局は生の貧乏を見てみたかっただけか。島は手袋の指の本当に先っちょだけで色々つまみ上げている。島のいる入り口のキッチン側の方が火災被害が大きいから余計に無残さが際立った。波はさっさと奥まで行くと、改めて部屋の中を見回した。島も後に続いて入ってくると、見るなり言った。
「うちのバルコニーより狭いですね」
「先生、そういうこと大声で言ってると、いつか刺されますよ」
 島は尚もなにか言いたげだったが、これ以上は無視して、小さな押入れのチェックを始めることにした。
 それまでは盗難品の確認だけで手一杯だったが、今日は使える物の状態を確かめたい。最低限の買い物は済ませたが、大丈夫そうな物があったら、一応拾っておきたかった。
 安さだけが取り得のアパートで、家の中はまだどことなく湿っていた。風が通り抜けると猛烈に寒い。荷物からゴム手袋を取り出して、ざっと押入れの中を漁る。
 さすがに衣類はダメそうだった。バッグや靴など革製品は変色したり焦げたりしている。携帯もここでダメになった。机の上のテキストやノート類も、一見濡れただけに見えるが紙同士がくっついており、無理やり開いても文字が滲んだり破れたりしてダメだろう。お気に入りの本も無残な姿で、悲しくなる。反面、心情的に消えて困るようなものがなくて良かったと思うことにしている。
 諦めて水周りを見ることにした。
 台所側の方が火が近かった分損傷激しいが、逆に燃えにくいものばかりなので残っている可能性もあった。変形したシンク下を無理やりこじ開けたり食器棚代わりの棚を覗いたりして、ようやく最初の品を発見した。
「あ、この薬缶まだ使えそう」
 振り返った島がぎょっとしたのが伝わった。
「やめなさい」