Home Sweet Home 43


 思わず口にしてしまったと口を押さえる。
 島はちらと波を見ると、ぱらぱらぱらと本のページを動かしながら、むくれたような言葉を吐いた。
「あなたが、余ったものはなんでも食べるなんて言うから」
「っ……いえ、食べますよ。余ってるのなら。ええもう、食い意地が張ってるとか意地汚いなんて言われても、お恵み頂きますけど。じゃどうして一緒に食べないんですか。時間が合わないならともかく」
「糖分は3時に摂取するのが1番効率的です」
「…?」
「あなたの場合、いつ糖分が不足するかどのくらいの摂取量が必要かもわかりませんし」
「……」
 島の言葉の意味が半分以上理解できなかったが、波は辛抱強く聞き続けた。
「それはあの、あたしが3時ぴったりに帰ってこないからですか?」
「仕方のないことですが」
「で、あたしが糖分不足の場合はどうされるんですか」
「すぐに補給します」
「あたし、そんなにカリカリしてます?」
「忙しそうだから」
 島の脳内構造を考えるだけ無駄なのかもしれない。だがおそらく、島なりに気にかけてくれてるということだろうことは辛うじて理解した。
「先生もしかして、気遣って下さったんですね」
「別に。とばっちりが飛んできてもかないませんし」
「糖分補給しても怒る時は怒るって言ったじゃないですか」
「困ります」
 こんな風にされて困るのはあたしの方だよ…。
 島がどうしてこんなにお菓子を用意するのか。波が保険のことで忙しなく出かけていたからだった。それがわかった波は、そう言えば島先生、授業の合間の3時前後はいつも急いで口になにか放り込んでいたなあとつまらないことを思い出した。それはどこか間違った観念のせいであった。
 悩んだ結果、まあここは感謝しておこうと結論づけ珍しく優しい気持ちで告げた。
「でも確かに、お菓子のお陰でリラックスしてると思います。お気持ちは嬉しいです。ありがとうございます」
「いえ」
「とっても美味しいです。きっとあたしなんかがお目にかかったことのない高級なお店なんでしょうね」
「気になさらずとも、高級ではありません」
「本当ですか。先生のことだから、ホテルとか特注品じゃないんですか」
「…です」
「ごめんなさい聞こえませんでした、もう一度お願いします」
「…くです」
「はい?」
「自作です……」
「じさ――っ!」
 波のあまりの驚きように島も動揺したらしい。すぐにものすごい眉間の皺で、言い訳がとんできた。
「料理は僕の精神安定剤だと説明したでしょう。日々必要なんです」
「いえ、あの、料理っていうか…お菓子作りが?」
 そういえば、イブに出てきたクリスマスプディング。あんなもの日本で滅多にお目にかかったことはないから変だなあとは思っていたのだ。まさか、まさか料理を一切しない島がお菓子作りが得意だとは! 中途半端な調理道具はそのためだった。波はビックリしすぎてなにも返せなかった。
 しかし。
 …ちょっと待て、今島は、精神安定が日々必要とか言わなかったか…?
 またあたしのせいでイラついてるって言ってる…!?
 さっと波がむくれると、島は素早く動く。
 つと差し出されるレモンパイ。
「っ!」
「補充しましょうか」
 微妙に気持ちを言い当てられたような気がして、波はやけくそになってフォークを取り上げた。
 お行儀悪くもぶすっとパイにフォークを突き刺す。
「いただきます!!」
 食べ終わる前におかわりが出てきた。