Home Sweet Home 42


 今も用もないのに隣の部屋でぐずぐずしてる島を見たら、子供ですかと突っ込みたい気持ちでいっぱいになった。ケーキをそのままに、つと島の方へ向かう。本棚を見てるフリをしてるくせに、波の気配にビクついている。この姿、どっかで見たことあるなと思ったら、初めて波を泊めてくれた朝の時であるのを思い出した。そうか、あれもそうだったのか。波は何気ない様子で声をかける。
「先生、先生はケーキ召し上がらないんですか」
「…あなたの分です。お気遣いなく」
「一緒に食べましょうよ」
「…パイはお嫌いでしたか」
 今日はレモンパイだ。ちらとテーブルの上を見てから、島に視線を戻す。
 これは戦法を変えないと目当ての答えは聞けないぞと波はしばし黙考した。
「…パイもタルトもなんでも好きですよ。毎日美味しく頂いてます」
「量が多かったですか」
「先生は甘いのお嫌いですか」
「僕は今のところ糖分は足りてます」
「先生、甘いものなんて食べなくったって、あたしはイライラしませんし、食べたってする時はします」
「!」
 その時の島の驚愕の顔を、波は写真に撮ってネットで公開してやりたいと思った。
 まさか、大学の先生ともあろう者が、本気でそんなこと信じていたの!
「あたし、そんなに怒ってるように見えました?」
 捨て鉢でズバリ言うと、通信回線の戻ってきた島は、パチパチと瞬く。
「いえ、その…女性はそういうものだと思っていたので」
 そういうものって、どういうものよ
 波はふうと息をつくと、死者への冒涜かもしれないが、あの写真の女性に文句を言ってやりたい気分になった。最初はサナトリウムの儚げな美女を想像していたが、肝っ玉母ちゃんの方へ下方修正せねばならないようだ。余程島のことを毎日怒鳴りつけていたに違いない。きっと亡くなる間際まで『りんごの兎はもううんざり』とか『私がくしゃみをしたらチョコレートが欲しいに決まってるでしょう』とか、なにかしらお三時に文句をつけて島をビビらせていたのだろう。
「あたしは食べても食べなくても怒るときは怒りますし、かといって不当に先生に当たったりしません。それよりもですね、用意してくださるだけでご自分はあたしがちゃんと食べたかどうか見張るだけなんて失礼ですよ。あたしのためにだけ買ってくださるのなら今すぐやめて下さい。あたしは過度な援助やサービスは遠慮します」
「別に。食べきれないからあなたにも差し上げてるだけです」
「えっ先生甘党!?」