Home Sweet Home 39


 波は噴火しそうな頭を、親友と彼氏がどう見てもいちゃついてる時の自分の冷めた気持ちを思い出すことでこらえることにした。
「掃除関連で一切お手を煩わせたりはしません」
 そう言うと島はしかめ面してなにか言いたげである。波は怯まずに続けた。
「とにかく家事労働力を家賃の一部として納めさせて頂きます」
「僕の部屋はどうするんですか」
「お好きに。許可さえ頂ければあたしがやってもいいです」
「幸嶋さんが?」
「積極的にやりたいわけじゃないので、じゃあ先生の部屋だけプロに頼んで下さい」
「…僕の部屋だけ…」
「なにかご不満でも?」
「後で怒ったりしませんか」
「…ちょっと意味をつかみかねるのですが」
 なんで波が怒るのだ。しかし島は難しい顔をしたまま黙ってる。
 波は一端間を置いてから、適当に返答することにした。
「何度も言いますけど、先生の生活に介入したいわけじゃありません。ただ、のんべんだらりとこの家に住まわせてもらってたら、出てけるようになっても出てかなくなると思うんです。渋るかもしれませんけどどうします?」
 わざと意地悪く言うと、険しい顔が怯えたように変わった。
 いい気味だ。波はフンと鼻を鳴らすと、どんどん話を進めた。
「あと、食事はあたしは自炊します。先生はケータリングでもなんでも頼んで下さって結構ですけど、あたしは自分の作ったご飯を食べますから。もちろん、食事も家賃の一部としてお作りして差し上げても構わないですけど、先生のお口には合わないでしょうし。でもまあ作った物を勝手に食べて下さっても気にしませんので。なんなら朝食だけ作るとかもありです。とにかく頼むのは先生の召し上がる分だけにして下さい。どう数えてもここには最大2人しかいないのに、パーティーコースを頼んで忘れて出かけるのはもうやめてください。受け取るべきかどうかもわかりませんから」
「そんな、僕だけ美味しい物を目の前で食べるのは失礼でしょう」
 どっちが失礼だ! 真面目な顔してあまりの物言いに、頬はヒビが入ったように震える。
「――もちろん、構いません。ここは先生の家です」
「…本当に美味しいんですよ」
 素でそんなことを発言する島にマジ説教のひとつもくれてやりたいが、波は忍耐力にかけては一流と自負している。気付かなかったふりをして、笑顔すら見せた。
「あたし、自分で作ったご飯で充分美味しいです」
「……」
 自分で自分に勝ったと快哉したい。
 しばしの沈黙の後、波は落ち着いて口を開く。
「こういう言い方はどうかと思いますが、先生もこの同居を決められたんですから、あたしと上手に生活を分ける工夫はしないといけないと思いませんか? 確かにあたしには先生の生活をかき乱す権利は一切ありませんが、どうしても全くいない時と同じようにはできないと思うんです」
「確かに」
 朴念仁ではあるが、正論で順序良く突けばきちんと納得する島に、波は少しだけ胸をなでおろす。しかしそれで安心せず、むしろ表情を引き締めた。
「先生は多分、家事全般があまりお得意じゃないんでしょうが、あたしは得意とか得意じゃないとか言ってられないので、努力します。だから先生、協力してください。日々の生活費はあたしの借金に加算されてるんですから、もう小皿1枚に食洗機をフルパワーで稼動したりしないでくださいね。それから」
「まだあるんですか」
 心底嫌そうにかえした島を黙らせようと波はずばっと言い放った。

「…あたし、先生がちょっと洗濯機を使ってみようとお考えになって、ハンカチ1枚に洗剤ボトルの半分を使ったの、知ってるんですよ」