Home Sweet Home 38


 波は自分でも時々「あたしは聡すぎる」と思うことがある。
 残念ながらそういう時、自分の方がおかしいとさえ思ってしまえるのが恨めしくもあり、辛い。
 本格的にスタートした同居生活たった3日後には、島智晴という人間の底が知れた気がした。
 それは注文単位を間違えたと思われる炭酸水20本入りケース10箱を眺めながら確信していた。
 新たな困難を前にして、あたしだって最初はこれでも我慢しようと思ってたのだと自分に言い訳し始める。
 ここは島の家だし、島の生活に勝手に割り込んできたのは波の方だ。
 だが、ものには限度ってものがある。
 プリンタートナー違ってたから合うやつ頼みましたという3台目のプリンタ・スキャナが部屋に届けられた時に、とうとう波のメーターは振り切れた。これは、どうにかした方がいいんじゃないか、と。
 波は決心した。

「先生、お話がございます」
 そのセリフに警戒するように眉を寄せる島が憎たらしい。
 だがここで引き返すわけにいかない。
「あたしは一時的にお邪魔しているよそ者です。本来は貧乏が板についたかまぼこ生活を余儀なくされた人間です。先生にお世話になって助かっています。感謝こそすれ文句なんていえた義理ありません。でも先生の生活を見てるとだらけそうなんです。なにもしないで3食昼寝付きのゴージャスライフしかできない人間になってしまいそうなんです。だから助けて下さい」
「まさかここに一生住まわせてくれとでも言うのですか」
「…違います」
 頭はいいくせに、こと一般生活になると途端にずぶの素人が聞いて呆れる経験値しか持ってないのは、島の専売特許かと謳いたくなる。
 とんちんかんな推測に波はずきずきするこめかみを意識した。
「あたしに家政をやらせて下さい。あたしが自分の生活をする一環としてであって、絶対先生の面倒を見るためじゃありませんから」
 島の生活に介入するというスタイルを見せてはならない。介入したいわけでもない。ただあたしが苦労したくないだけ。先生に迷惑さえかけなければあたしにだって慎ましく生活する権利があるはずだ!
 焦れてても波は慎重に話を進めた。
「あたしは今後切り詰めた生活をしなくてはなりません。もう既に先生への借金は過去最高額を誇っています。これを減らすためには、自己の労力を使うしかありません」
「今でも充分やってるでしょう」
「けど先生はハウスキーパーとか頼まれてるでしょう。それをやめて頂きたいんです」
「どうしてです。ゴミが落ちてても平気なんですか」
 嫌そうに言う島に、あんたはミクロンサイズのゴミしか目に入らないのかと、波はぐっと顎を突き出す。
「そうじゃありません。掃除くらいあたしでもできます。つまりは、あたしの労力を使うことで多少は光熱費の削減に繋がるでしょう。ひいては先生への借金も減るって寸法です」
「そこまでお金は取りませんよ」
「あんな掃除機あてるだけの仕事に何万も払うんなら、あたしにその半額でも払ってやらせて下さい」
「掃除なんてできるんですか?」
「プロとまではいかなくても、それなりにはやれます!」
「僕に聞かれてもわかりませんよ」
「聞きませんから!」
「道具が壊れても直せませんよ」
 誰が頼むか!!