Home Sweet Home 37


 波は悩んだ挙句、自分の部屋と自分が使用した部分に関しては自己管理すると決めた。
 例えば部屋としてあてがってもらってるところは掃除や洗濯を全て自分で行うし、台所や風呂トイレなど使用したら、例え島がハウスクリーニングを頼もうがなんだろうが定期的に自分で綺麗にするのだ。
 しかしまだまだ問題点はある。
 どうも島は、性格的な問題だけでなく、生活能力にも相当問題があるようだ。
 波は他人の、それも贅沢な人間の家で暮らすようになって、改めて自分がなんとつましく正しい清貧生活を送ってきたのかを痛感した。
 例えば風呂。
 お風呂はなんとなく時間帯をずらすようにして、家主の島を先に譲っていたのだが、たまたま島の後すぐに入ろうとしたら全くお湯がなかった。
「先生湯船はってませんでしたっけ?」
「今入れ替えてますから、待ってください」
「入れ替え…って、お湯、抜いちゃったんですか」
「だって…僕の後じゃいやでしょう。いつもそうしてますけど」
「いつもって、じゃ、じゃあ毎度毎度ご自分の後お湯張りなおしてたんですか?」
「それ以外なにが」
 なんと勿体無い…!
 確かに家族でもない人間とお湯を共有する時は気を遣うが、体を洗ってから湯船に入り、出る時また気を遣えばいいことだ。わざわざ炊き直してくれる必要を感じるほど波に嫌悪感はない。むしろ、その気遣いの方に不満を覚える。残った湯は風呂掃除にだって使えるのに…! 貧乏性が染み付いた体には耐え難い苦痛である。水道代とかもチェックして後で半額払おうと思ってたし、幾ら水道代が一番安いからって贅沢はできないのだ。すぐに自分はそこまで神経質ではないと訴えてみたが、不審そうにしているので、逆に波が先になった時はそうしないと嫌なのか? という疑問が残った。
 また別のこと。波が買ってきたパセリや三つ葉を水に差してると、島は珍妙なものでも見る顔をした。どうせ貧乏人の浅はかな知恵とバカにしてるんだろうと無視してたら、次の日にはそれらが突然花に変わっていた。
「!?」
 呆然とした波の後ろを、ふらりと島が横切った。
「…先生、昨日ここにあった三つ葉知りませんか」
「捨てましたが」
「すっ――えっ!?」
「…花くらい、買ってあげますよ」
「!」
 なんと、島は波がグリーンの代わりに一袋百円の三つ葉を生けていたと思ったそうなのである。幾らあたしが貧乏だからって、三つ葉を観葉植物にするか! 波は心中怒ったが、しかし島は波がなにをしていたのか理解していない様子だ。
「花より三つ葉が好きなんですか?」
 筋が浮きそうなのを抑えるために声も出ない。
 また島は、綺麗好きではあるが大変ルーズなのかずぼらなのか、なんでもやりっ放しが多いということもわかった。テレビをつけてコンポの電源を入れっぱなしてパソコンとプロジェクターを立ち上げたまま、窓の開いた部屋に床暖房とヒーターと換気扇と加湿器をかけて、真昼間から電気と間接照明とをつけたまま出かけるというようなことを平気でする。気がついたらパチパチ電源を切って、暖房をつける時は熱効率を考えて、いるところ以外の電気は消すうえ、この間まで暖房がなくて部屋でコートだった波にとって、この大量エネルギー消費は地球に優しくなさ過ぎるどうにも落ち着かないものでしかない。過剰なケチは嫌いだが、ただの無駄は大嫌いだ。だが勝手に消して後で文句を言われるのも嫌だと思う。となると、見て見ぬ振りをするしかできなくなる。
 床に零した水を1箱1500円もするティッシュ何枚もで拭く島に焦らされてると、あたしは克己心を育ててる最中ですと暗示をかけるより我慢のしようがない。
(あの人は常識知らずの坊ちゃん。だからお札と鼻紙の区別もつかないの)
 けれどそんな波の努力も虚しく、島は自分で夕食の配達を頼んでおいて忘れて外で食べて来てしまったり、『買ってないと思った』という訳のわからない説明と共に全く同じプリンタ・スキャナを2台も買ってきたりと当初は思いもよらなかったの抜け作っぷりを炸裂し始め、波の中での尊敬すべき師としての立場を自ら貶め続けた。