Home Sweet Home 33


 暫くの沈黙が降る。
 はぁと溜め息をついてこめかみを押さえると、島は疲れたように波を見た。
「子供じゃないんだから少しは自分で考えて行動して下さい」
 言われてハッとする。
「すいません、ど、動転して」
 いつもなら絶対こんなことなかった。波は赤くなった頬を押さえると、くそうイケメンに叱られたと見当違いに逆恨みして、それから黙り込んで考えた。火事や泥棒のことで頭がいっぱいで、実はバイトを入れていたのにすっかり頭から抜けていた。本当に信じられないミスだ。なんだかんだ言っても自分は慌てていたのだと、島の冷静な声を聞いていると悔しいが諭される。ついでに苦虫をかみつぶしたような顔を見ればするすると事態が呑み込めてくるからもっと嫌になる。
 本業の家庭教師のアルバイトは年内終えていて問題なかった。が、その間単発バイトを入れていたのだった。単発とは言え、無断欠勤を放置するにはまだ日数が残っている。元々はバイト斡旋のところからの紹介なので、斡旋の方に文句がいってるかもしれない。きっと携帯もつながらなくて不信がっているだろう。ブラックリストとかってあるのかな。激怒してるよね。とりあえず謝っとかないとマズイ。
 波は今までにしたことのないような痛恨のミスに少しだけ落ち込んだ。優等生で通ってきた彼女には、無断欠勤をする自分など考えられなかった。バイトの中でも時々いい加減な連中を見かけたが、そういうのを見るにつけ、口では言わないものの波は軽蔑してたものだ。なのに今は自分がそっち側の人間になっている、理由はどうあれ。
 はあと重い息を吐くと、恥ずかしいのを隠すように俯いて、「あれ」の正体であるパソコンを貸してくれと頼んだ。連絡を取るには、ネットで店の電話番号を調べるしか方法がない。先ず謝罪をして、それから紹介元にも連絡しておかないとならないだろう。バイトも重要だが保険屋やアパートでの話し合いの方が優先されてくるから、今後どれくらいバイトに時間を割けるかもわからないというのに、実入りが減った上嫌な先例を作ってしまった。もしかしたらペナルティをとられるかもしれない。少しだけ冷静になった波が青ざめつつも処理を始めると、島はいつものように眼鏡の奥からじっと覗いている。
 島の視線を感じて、波は困惑と気まずさでお尻の辺りがムズムズするのを感じた。島には一昨日からこっち、怒ったところや慌てたところ、失態など、友達なら決して見せない姿ばかりを見られている。波が戸惑うような表情を見せると、島は急に呆れたような溜め息を吐いて部屋を出て行ってしまった。遅れて玄関扉の閉まる音が聞こえた。
 ――嘘、普通そこまで呆れる?
 まるで馬鹿でも見るような目つきで眺めた挙句、家を出て行ってしまうなんて。波はぐっと悔しさを堪え今すべきことに集中しようと努力した。
 店の連絡先を調べ、急いで電話する。クリスマスの書き入れ時だけになかなか電話に出なかったが、繋がって波が名前を繋げると、すぐに店長に代わってもらえた。開口一番に叱られた。平謝りに謝って事情を説明しようと波が話そうとしたところで店長からは『忙しいし、代理は補充した。結構だ』とぶち切られた。いたしかたないとは言え気分は良くなかった。続けて登録先に連絡を入れると、罰金という今一番やって欲しくない結果が待っていた。
 相手にとってこちらの事情など知ったことではない、わかってはいるが再び疲れが溜まっていくのを強く感じた。こっちだって開けたくて開けた穴じゃないのに。少しくらいは同情して欲しかったという、勝手な思いが募ってく。
 ああ疲れたあと書斎の机にうつ伏せると、波はぐったりとした。調べ終わってから、そう言えば島に携帯買ってもらったのだったと気づいて、携帯使えば大騒ぎして島にばれなかったのにと二度がくりとした。だるさにモチベーションも下がり、広い家に取り残された淋しさも手伝ってもうなにもかも投げ出したい。
 島が帰ってこない気がして、不安だった。