Home Sweet Home 3


 立派な先輩は、本当のイブとクリスマスは家族と過ごしたいだろうから、その前の日、23日から24日の朝までの時間を自分にくれないだろうかと正々堂々申し込んできた。それってやっぱりあれだよね。初めてのなんちゃらってヤツ。これこそ真実最後の恋と思っていた波は、舞い上がったが冷静に承諾した。クリスマスに向けてプレゼントやらなんやらと用意し、準備万端で迎えた運命の日。今となっては「抹消」と書かれた扉の向こうにある記憶だ。
 結果から言えば、そのクリスマスイブの朝、波は先輩と別れた。先輩はクリスマス前後一週間を1日毎別の女と過ごす計画だったうえに、前の日他の女からもらったプレゼントをそのまま波に寄越していたという、真実最後の恋にしては大変お粗末なものだったからだ。“家族と過ごしたいでしょ”なんて詭弁もいいとこ。それがわかったのは、朝、起き抜けに違う女の名前を呼ばれたのと、波にくれたはずのプレゼントを「嬉しいよ」などと言って自分で持って帰ろうとしたせいだから情けない。寝起きで色々ごっちゃになってたらしい。波の後のもう1人との予定に急いでいて、本人は己のミスに気が付かないままさっさと帰ろうとした。絶対変だ、と思った波がわざとごねてみせたところで、時計を気にしだした先輩がついに本性をむき出しにし、怒りを露わにした。「余計な詮索をしない頭のいい女だと思っていたが、お前も女のクズだったのか」。余りの変貌振りに波は心底驚いた。心底驚いて当てずっぽうで他に女がいるのかと問い質した。するとその男はどこでそんないびつな帝王学を学んだのか、優秀な男は妾を持つのが当然だと言い放ち、コトが露見したのである。
 相手にとっては何人かのうちの1人との連綿と続くクリスマスイベントだったかもしれない。だかそれが初めて恋人と過ごすクリスマスだった波にとっては、度し難く許せない行為だった。波は決して泣いたり喚いたりしなかった。ただ青ざめた顔で、プレゼントを相手の顔面にぶつけて帰っただけだった。それ以来絶対に男を信用しなくなった。特に顔のいい男は無条件で。付き合った3人が3人ともお面が良かったのもあるし、顔がいいからモテる→モテるから沢山の女がむらがる→据え膳食わぬは=いかにもモテそうなヤツは裏で絶対何かある、そう結論付けたのもある。今度こそはと見極めたはずの恋で3度目の不幸のどん底に落とされた波は、もう二度と同じ轍は踏まぬと自分に徹底した。ひたすら勉学に打ち込み、恋愛には石橋を叩いても渡らない派になった。あれから3年。あの日から失敗せずに生きているその感謝と、悪夢を忘れないためとして、クリスマスイブイブを悪夢記念日と認定している。とそういうわけなのである。