Home Sweet Home 29


 時を同じくして来た島は、両手に荷物一杯の波を見て呆れたように言った。
「早かったですね。てっきりあと2時間は戻って来ないかと」
 約束したのに戻って来ないとかありえないでしょう。人をどれだけ買い物魔だと思ってるのだ――とは思っても口にできず、波は小さく否定するにとどめる。
 島の視線がじろりと波の手に行く。
「なにも荷物全部持って待っていることなかったのでは。店に預けておけばよかったと思いますが」
 そんなこと考えもしなかったし、地理的に後で回収する方が手間だった。考えたらイブイブからずっとこんな姿ばかり見せてる気がする。すると島は意外にも荷物を持ってくれると言った。冷たいくせにそういうところは紳士なんだ、重い荷物は率先して持つってプログラムされてるのかな、と妙なことを考えた。
 駐車場まで戻り次々と荷物を車に積み込んでいると、波は周囲の目がみな島に向いていることに気付いた。良く考えなくても、外見のいい男が高級車に沢山女の買い物を積んでいる。普通の人間なら羨むだろう。不幸ごと丸々請け負ってくれるなら、代わってやってもいいわよ。そんな風に思いつつ車に乗り込むと、島は「ちょっと立ち寄りたいところがあるのですがいいですか」と断って来た。波が「もちろんどうぞ」と言うと「2カ所あります」などと、予想外に島は下世話(?)な街を堪能していたらしい。どこに行くのだろうか興味がわいた。
 1件目はさっき島を見かけたインテリアショップで、お買い上げの椅子をどうやらそのまま持ち帰るらしかった。後ろに積み込んでるのを黙ってみる。島はすぐに次の場所へと向かう、その横顔をこそりと眺める。
 島の生活ぶりや態度からすると、やはり実家が相当いいに違いない。先生なんかにならなくたって、学問がしたかったのならお金はあるんだから好きなだけ続けてればいいのに、なんでそんな職業を選んだんだろうという疑問が自然に浮かんだ。
 普段の島はおっとりというよりツンケンして近寄り難い雰囲気を前面に醸し出している。噂によれば、教授室は殆ど締め切っているというし、授業以外では滅多に顔を出さないらしい。確かに必要以外の付き合いを好むような人間に見えない。
(大体、ハンサムといったら無駄に優しいって相場が決まってるじゃない。なのに島先生ときたらその真逆を地で行っているんだから)
 たった2日の間でも、つねってやりたい気分にさせられたのは1度や2度じゃない。だけど自分を居候させてくれた。そのせいで全く島という人間がわからなくなっているのが事実だ。いい人なのか冷たい人なのか。どう接していけばいいのか考えてしまう。少なくとも干渉されるのは嫌いということは知ったが。
 そんな人と、そんな人の車の助手席に乗って、同じ家に帰る。生活に必要な沢山の物を買い込んで、まるで新婚みたいに。
 新婚という単語が急に恥ずかしくなって前を向いた。そんなことを考えているのが知れたらなんと言われるかわからない。それに年が違いすぎる。端から見れば良くて甥と姪だ。こんな年上の考えることなど想像つけるほうが難しい。馬鹿なことを考えるのはよそうと波は自分に苦笑した。
 同時に島が車を路肩に止めて波の方を振り返ったので、波はぎくりとした。
「他に買うものはないんですよね」
「…はい」
「ではここで、もうしばらく待っててください」
 島は言うなり素早く降りる。波はほっとしつつ、ここが2件目だろうかとぼんやり島の歩いていった方を眺めていた。
 本当にすぐに島は戻ってきた。手には小さい手提げ袋を2つ持っている。波はそのロゴを見て驚いた。
「携帯買ったんですか!」