Home Sweet Home 28


 波は生まれて初めてカードを使った。
 感想を一言で言えば、ものすごく緊張した、だ。なにせ戦車も買えるカードなのだ。カード会社から認められた顧客だけが加入権を得られて、電話一本でどんなサービスにも応えてもらえるハイパー世界の産物。普通だったら一生お目にかかることなく終わるのに、なんとそれを文無し学生の波が使おうっていうのだから、緊張しないわけない。
 相当震えながらカードを出すと、なんとなくじろっと見られてるような気がして、波は冷や汗をかきっぱなしだった。本来このカードは波のものではないし、波のような年の女の子が持てるカードでもない。娘と言おうか、彼氏とでも誤魔化そうか。泥棒と思われたらどうしようと不安で、でもそういう態度が余計に疑われるのではないかと思うと、また不安になった。しかし、これまたカードの威力か、相手も本物のブラックカードと思っていないのか、はたまた知らないのか。ともかく波は不審に問われることもなく、大体の買い物を終えることが出来た。
 島は予想してなかっただろうが、貧乏人の波がデパートやブランドの路面店で買い物するなんて滅多にない。いわゆるファッションビルか安いセレクトショップ、あとは大手カジュアルメーカーで済ませてしまう。雑貨だって100均が殆ど。見てくれに拘らないで済む部分は安く、がモットーの波は、3足1000円の靴下にこのカードを出した時、最高の手札で最低のカードを負かしたような気分だった。
 手早くあらかたの買い物を終えて時計を見ると、まだ待ち合わせの時間にちょっと間がある。随分な荷物になってしまったし、これ以上は持って歩くのも辛い。また別の機会にしようか、当面必要な物リストは他にもうないかなどと考えて歩いていると、意外にも外にいる島の姿を見つけた。3時間、命令されたロボットみたいにコーヒーでも飲んでるかと思ったのに。波が遠目からそっと様子を覗いていると、果たしてインテリアショップの中には吸い込まれて行った。
 店内は周辺からすると雰囲気のいいものばかり置いてあるなかなか高級な店だ。やっぱりあの人は高級な人なんだと思っていると、女性店員が親しげに話し掛けているのに、島は素っ気無い様子。ただ1つの椅子ばかりを眺めている。あれはカウボーイチェアと言うのだろうか。
 波が隠れて見ていると、リクライニングのきいた、座面が毛革のその椅子に島は横たわった。モダンでおしゃれな島の部屋にぴったりな椅子だった。そして何度も起きたり横になったり目を閉じたり触ったりと同じことを繰り返している。表情はちっとも変わらないけれど。本とにアンドロイドみたい。くすりと忍び笑いしてる自分に今度は苦笑する。
 暫く目を閉じていた島が俄かに起き上がって店員になにか伝えた。どうやらお買い上げらしい。島の出したカードの色が気になって眺めていたが、そのまま島が出てきそうだったので慌てて待ち合わせ場所に向かった。