Home Sweet Home 25


 朝の眩しい光に、ゆっくりと目が開いた。
 見慣れない景色に、寝起きの頭が遅れて反応する。

 ――クリスマスプレゼントか!?

 はっと飛び起きて、島の家だと気付くと、ガッカリすると同時になぜだかホッとした。変なところで野宿してしまったり全てが夢だったのじゃないかと妙に不安になったのだ。
(あれ、でもあたし、夕べの記憶が)
 お風呂に入ったかすら自信がない。見ると、冷えピタが前髪ごと貼り付いている。そう言えば頭が痛い。そうだ昨夜は飲んで帰ってきたのだった。黙々と注いだせいでかなり飲んでいたのかも。途中から完全に記憶が飛んでいる。でもお鮨美味しかったなあ。これだけは忘れてなるものかと、波は頭を押さえながら起き上がった。
 記憶が飛ぶまで飲んだのなんか久し振りだ。
 見ればパジャマの下はパンツもはいていなかった。余程意識が怪しかったに違いない。波は酔っ払って島になにか失態をしでかしてはいないだろうかと不安になると同時に、妙に恥ずかしくなって大慌てで着替えた。他に着るものがなくてあの買ったばかりのワンピースを着ると、なんてことない日なのに、まるでデートに行くようだった。
 今日からここにお世話になる。
 とりあえず1人で生活が再開できるお金ができるまで、居候させてもらえることになった。そんな家主に初日から粗相したのでは、幾らなんでもまずいだろう。そうは言いつつもうすっかり日は高いのだけど。
 波は島の様子伺いに部屋を出てリビングへと向かった。
 見ると島がまた食事を用意している。
「おはようございます…」
 島はギョッとしたように振り返って、そしてすぐにまた元の方に向き直った。
「おはようございます」
「すいません。あたし昨晩の記憶がぼんやりしてて。冷えピタくださったの先生ですか?」
 島は暫くの間無言だったが、黙って味噌汁をよそうと、ようやく返事した。
「シジミ汁、飲みますか」
 島はどうしていつも聞いたことと違うことを言うのだろう。
 波はちょっと訝りながらも「頂きます」と言った。やや二日酔いの朝には、貝の味噌汁は最高だ。
「あたしだって、うまくないけどご飯ぐらい作れますよ(…多分)」
「気になさらなくて結構です、これは僕が作ったわけでもないし、自分の分のついでです。別に気を使って料理しようとか思わないでも全くもって構いませんから」
「あ、そうですか…」
 今朝は島も遅かったらしく、一緒のブランチとなった。なにを話していいのかわからず、とりあえず無言でいると、珍しく島の方から話し掛けてきた。
「今日は買い物に行きます」
「はあ、行ってらっしゃい」
「あなたも行くんです」
「え!」
 すると島は呆れたように波を見た。
「だって、暮らすのに当面必要なものがいるでしょう」
「あ…」
「借りは後で全部返して下されば結構ですから」
「…はい」
 確かに、今のままでは日々の生活に困る。女の子として、暮らすには物入りだ。島の家でなくとも買い物の必要はあった。
「ご迷惑おかけします」
「もう覚悟したと言ったでしょう。蒸し返さないで下さい」
「…すいません」
「それから、外では先生と呼ぶのはやめましょう」
「はあ」
「あまり立場的によくないでしょう」
「でしたら、先生も馬鹿丁寧な敬語止めてくださいよ。なんかロボットと喋ってるみたいで」
 言ってしまってからちょっとしまったと思いつつ、波は誤魔化すように続けた。
「いえあの、もうちょっと普通にしてもらえると。先生なんですし。こう後輩に喋るように」
「それは無理です」
「そ、そうですか…」
 にべもなく断られて、波はがくっとした。
「それから幸嶋さん、あなたはあまりお酒を飲みすぎない方がいいと思いますよ」
「! あたしなんか粗相しましたか」
「いえ別に」
 島が味噌汁を飲みながら、お椀の上からちらっと波を見たのが気になった。
「なにかあるんならはっきり言ってください。先生だってあたしにすぐに注文つけるんですから」
「なにもありませんよ」
 そう言うと、食べ終わって支度したらすぐに行きますよと島は席を立った。波も慌ててご飯を食べ終えた。