Home Sweet Home 24


 本当にいいのだろうか?
 疑るように島を見上げても、島の表情からはなにも読めない。
 波は自分の荷物を持ってさっさと行く島を眺めながらふと思った。
(島先生、女の人苦手って噂、本当なのかも…)
「よろしく――お願いします」
 小さな声で波が告げると、島は振り返りもせずに言う。
「部屋を貸すだけですから。それ以上は期待しないで下さいよ」
 ぶっきらぼうに言うだけ言って、黙って歩き続ける。
 結局島が連れてきたのは、こぢんまりとしてはいるが綺麗な鮨屋だった。季節の草花が活けてあり、隅々まで店主の目が行き届いているような感じを受ける。しかしその分値段も高そうだ。波は戸惑った。
「あの、あたしそんなにお金ないんですけど。その上借金もしてますし…」
「僕がなにを食べようと僕の勝手ですから」
 島はさっさと中に入ってしまう。カウンターにつくなり、酒を頼んでしまった。
「勝手に好きなだけ頼んでください。学生だからって遠慮する必要はありません」
 そうは言われても。波が躊躇していると、島は1人で勝手にあおり始める。見る見る赤くなって、どうやら酒に弱いらしい。あんな飲み方して平気なのかしら。波の方にもさっと注いでくるので仕方なしにちょこっと口にした。それからはもう手酌ということにして、2人は無言で飲みつづけた。妙な感じだったが、波は考えないことにした。
 予想通り出てくるものはどれもこれも非情に美味しかった。鮨だけでなく、ちょっとした小料理も料亭のような出来栄えだ。初めて食べる料理の数々に、いちいち度肝を抜かれる。お腹がぺこぺこだったので一つ口にする度幸せが体中に染み渡る。しかもお酒が入っていたので、段々と波の気持ちはほぐれ楽しい気分になった。島のことは憎らしいとさえ思ったが、きっぱりと言ってくれたことだし、他にどうしようもないのだからとこちらもお世話になると腹を決めるしかない。もう相手が先生だろうがイケメンだろうが、頼るよりないのだ。だったら出来るだけいい関係を築こうと波は決心した。どうせ保険がおりるまでのこと。9割方、酒の力を借りて気が大きくなっていたのだろう。
 お腹が一杯になって波がお手洗いに行くと、その隙に支払をさっさと済ませてしまったらしく、戻るなり島は席を立った。波が「お金が出来たら…」と言いかけると「僕の勝手ですから」と再び遮られる。おごってくれるということなのだろうか。もう迷うのはやめて、素直に「ご馳走様です」と言った。2人は黙って家路についた。
 先に風呂を勧められて、遠慮せずにありがたく入らせてもらった。湯船につかっていると、ますますお酒がまわっていい気分になる。
 なんだかんだ言っていたのに、島に結局居候させてもらうことにしてしまった。
 意地悪いと思ったけれど、やっぱりいい人なのだろうか。
 島先生はもしかしたら、あたしに気があるのかも。
 ま、あたしは興味ないけどね。あ、今度はあたしが顔のいい男を手玉にとってみるっていうのもありかも。フフ
 あの写真のことなどすっかり忘れて、勝手ないい気分で波は夢を見た。

(ああ、夢じゃありませんように……)

 とろんとして、お湯に沈む。
 こうして、島の家に居候させてもらう波の奇妙な生活がスタートした。


(つづく)