Home Sweet Home 22


「なんですか」
「これだけご迷惑をおかけしておいてなんですが…嫌ならはっきり嫌と言って下さい。親切にしてくださってありがたいのですが、嫌なのに無理にご迷惑をおかけして先生が苦悩されてるのを見ると、やっぱり辛いんです。中途半端に迷われれば、あたしも甘えてしまう気持ちが出てきます。ですから、我慢できないのにあたしに義理立てして下さらなくても…あたしも多少は大人ですから」
 島は目を泳がせた。やっぱり波のことが迷惑だったのだ。気持ちをずばり言い当てられて動揺した、波はそんな風に受け取った。だが、島の回答はそっけなかった。
「あなたに僕の気持ちを考慮していただく必要はありません」
 これじゃアンドロイドと陰口を叩かれても仕方あるまい。島のあまりの言動に、腹を立てた女子学生が言った揶揄を思い出した。――ATMのがよっぽどましだよ!
「そうは言っても、先生ずっとこんな調子ですし。あたしだってそこまで言われて無理してもらっても、気が休まらないというか…失礼なのはわかってますけど」
「僕の性格をとやかく言われる筋合いはありませんよ」
「わかってます」
 徐々に空腹が強くなって、徐々に腹が立ってきた。幾らなんでもひどすぎる。自分だってかけたくて迷惑をかけているわけではない。波の中でこれ以上ここにはいられないという気持ちが湧いてきて、急になにもかも嫌になってきた。
「先生はなんだってそんな人を目の仇(かたき)みたいにするんですか」
 島の眼鏡の奥をまっすぐ見る。まるでガラス玉みたいに感情がない。今まで付き合ってきた男たちの最後の顔が甦った。皆が皆、波を棒切れでも見下ろすみたいに、こんな冷たい目をしていた。怒りが再燃した。
「そりゃ迷惑かけて悪いのはあたしです。でもそれなら、最初から親切にしなければいいじゃないですか。あたし大学生なんてやってますけど、先生から比べたら馬鹿だし、失ってみないとそのありがたみをわからないくらい間抜けで、家族なんかなくたってなんだって1人でやってける、大学だって奨学金で行く、誰の力も借りないって言って家飛び出してしまうような人間ですよ。それで今はこの有様。やっぱり誰かの力を借りなきゃまともに生きてけない、お前なんてそんなものだって言われてるみたいで。頼りたくても頼れる人がいないって言う時親切にされたら、つい甘えちゃうじゃないですか。あたしのこと馬鹿だって笑うくらいなら、はじめから優しくしないで下さいよ。つけあがるだけじゃないですか。それならもう放っておいてくださいよっ」
 一気に言ってしまうと波の顔は真っ赤になった。でも島はこんな時でも表情を変えなかった。波は癇癪を破裂させたまま荷物を取り上げた。
「本当に2日間ありがとうございました! 常識知らずでスミマセンでした! ご好意に甘えてだらだらとしてスミマセンでした!! このことは誰にも言いません。お金も早く稼いですぐにお返ししますっですから安心して下さいっっ。それではお腹も空きましたのでさようなら!」
 波は荷物を大袈裟に振りながら急いで飛び出した。見るとまたあの重いシャンパンを持っていて、失敗したと思った。こうなったらとことんまでシャンパンと心中してやる。とにかくご飯でも食べよう。「やっぱり島先生は冷たい人間だったんだ。泊めてくれたのも、あたしをいびるためだったのかもしれない」と歩きながら罵った。
 つむじ風が剥き出しの頬に冷たく当たる。早く暖かいものでも食べて気持ちだけでも落ち着こう。もうどうなったって構うものか。今までだってなんとかやってきたんだから。
 思い切り叫んだ。「――野宿して野垂れ死んだっていいもんね!」

「待ちなさい」

 波はぎくりとして、立ち止まった。