Home Sweet Home 17


 ――幸せそう。

 彼女のこんなに甘くて優しい顔。波は切なくなった。隣に立つのがスーパー嫌味な超エロ男でも、彼女にとっては大切な彼氏だった。ようやくお互いの気持ちに気付いて恋を実らせた2人が初めて過ごすクリスマス。波は親友とその笑顔の矛先を見比べる。あたしだって知ってる。ヤツが彼女とこうして過ごせることを誰よりも喜んでるのを。過去のトラウマから人間関係に臆病だったアイツが、子供の頃の彼女との思い出を何年も大切にしていたことも、彼女に近づきたくて近づきたくて住んでいた海外から戻ってきたことも…。
「波、どうしたの?」
 その声に、ふと我に返った。
「あたし、帰る」
「え、なんで!? 用事があって来たんでしょ? わたしたちのことなら波が遠慮なんてすることないんだよ」
「いい。そんじゃねバイバイ。よいクリスマスを」
 波は引き止める声を背に走って逃げ出した。
 あんな笑顔見せられちゃったら、自分の不幸に巻き込んだり出来ないよ。波は複雑な心境でスタスタと歩き続ける。波はキツイところもあるけれど、友達を大切にするし妙に気を遣うところもある人間だった。
 これでもう、家のわかる友人はいない。

「――あ!」

 走って逃げ出す前に、ツテだけ聞いておけば良かった……
 後悔しても始まらない。

 …ク、犯人、見つけたら絶対に絶対にブッコロス

 でも憤怒の情はすぐ萎えた。怒ったところで住むところや生活するのに必要な道具がやってくるわけじゃない。切実に、これからのことを考える方が先なのだ。
 波が奨学金を取ったのは、親に反発して地元を出るためもあったが、極貧というわけではないけれど娘3人を学校にやって、その上家賃や生活費まで丸々補助できるほど裕福な家庭ではなかったせいもあった。
 幸い勉強はそこそこできたし、家の収入が奨学金の条件に合ったので、どうしても田舎を出たかった波は飛びついた。しかし、連日のバイトと受験勉強で、入試の時高熱を出し思ったほど成績が出せなかった波は、無利子ではあるが返済義務ありの奨学金に格下げされてしまった。この場合社会に出てから返済する借金を負うということである。その上さらに火事で火の車なんてシャレにもならない。
 1度しみついた貧乏は離れないと言うが、波の場合、貧乏に呼ばれてるとしか思えない。
「タイミング悪すぎだよ…」
 なにもクリスマスに自分から全部を奪っていかなくたっていいのに。
 今日は昨日とは違ってややお天気は上向きなものの、やっぱり風は冷たい。
 昨日と同じ服を着て、あてもなくこうしてぐるぐるまわっているけれど、イブ独特の温かいムードが余計に寒さをあおる気がする。
 残りの荷物は島の住む駅のコインロッカーに預けてある。島の家に置いてくるのも気がひけてそうしたのだが、これからどこに行くかもわからないし出来ることもなくなってしまった波にとってはお荷物だった。とりあえず回収するよりないと島の駅に戻ることにした。
 急いでもいないのに着くのは早かった。コインロッカーでのろのろと荷物を出してしまうと、本当にすることがなにもなくなってしまった。

 一体何度途方に暮れれば、いいのだろう?