Home Sweet Home 15


 3度途方に暮れると、人間やる気をなくす。
 朝食後、申し訳ないついでに島に少しお金を借りて、波はアパートに行ってきた。
 アパートに管理会社はなく、波は大家さんと直接契約している。が、大家も、保険会社も、近隣の住人も、揉めに揉めていて、すぐに保障が得られるものだと思っていた自分が甘かった。お互い責任のなすりつけあいだし、何度訴えても調査が済むまで保険はおりないという。今回の火災の原因がまだわからない上に、同じような貧乏アパートで過去に保険金詐欺があったらしい。特に不動産管理会社のタッチしていない契約に、保険会社は慎重になってるようだった。
 少なくとも火事の責任は波にはない。しかしアパート側にもその他の住人にも責任がないというのであれば、当面住むところは自分で探さなくてはならないだろう。しかも出荷元の部屋の住人は、火事は泥棒の放火じゃないかと言う。あんな貧乏アパートに泥棒が好んで入るもんか、食ってかかろうと思ったが、泥棒を呼び込んだ住人が悪いなどとめちゃくちゃな理論を言い出す人が出て、泥棒に入られた波にも逆にお鉢がまわってくる始末だった。無一文の自分からこれ以上なにを持っていくつもりだ。話は堂々巡り。その辺りの討論だけで何時間もかかり、かなりへとへとだった。
 もう1つ波が頭を抱える問題があった。
 火事の原因が軽過失(注意義務の懈怠−カイタイ:義務を怠ること−が重大ではない場合)以下の失火の場合、失火元の住人に責任は問えないのが日本の法律だ。しかし、類焼した場合でも類焼先である住人の家主への賠償責任は発生する。つまり、今回波はもらい火をしたのだが、失火元の家に責任が問える問えないは別として、波は家主に必ず賠償責任があるということ。そしてそこでわかった一番よくない事実に、波の保険には『借家人賠償責任保険特約』とかいうのがついていなかった問題があった。
 『借家人賠償責任保険特約』がない場合、大家への損害賠償が発生すると、波はその支払いをする元手がない(=賠償に対する保険料がおりない)。アパートの決め手は、なんと言っても安いことである。学費を大学からローンで借り、親の援助なしに地方から出て大学に通ってる波にとって、住まいにお金をかける余裕などなかった。ボロくたってオシャレには出来るし、第一火災なんてそうそう起こるもんじゃない、火災保険自体も安く済ませるために時価で保障するものにしていたくらいだ(時価でつけると月々の保険料は安いが保障額も経年劣化後の時価に下がってしまう)。貧乏アパート故に掛け捨ての保険など安くていいという希望者が多いのだろう。大家さんもそんな保険に言及しなかったから波なんかにわかるわけなかった。結果、『借家人賠償責任保険特約』がない保険料だけ払って契約してしまった。
 最悪、家財と引越し費用におりる保険を使って支払おうとも思うが、その保険自体がまだおりる保障がない。なにもかもが保険次第。それまで一体、どこに住んでどうやって生活しろというのだろう?
 預金口座は既に凍結を依頼しており、その時確認した話だと、泥棒に預金を引き出されずには済んでるらしい。暗証番号でロックがかかっていた。だから(もともと)多少であるがお金は残っている。ただクリスマスの連休で銀行は軒並み休業しているし、キャッシュカードのない波にはATMでおろす手立てがない。おろしたところでアパートを借りられるほどの元手はない。借りたが最後、衣食住の住以外の生活が出来なくなる。

 金、金、金! 世の中全部金なのよ!!

 ここで実家に泣きつくなど波にとって以ての外であった。
 こんな非常事態に陥っても頑なに拒む、どうしても帰りたくない理由が波にはある。先にも述べたが、こんな目に遭ったと言えば、大学なんて辞めて帰って来いと言われるのが目に見えていることだ。波は学費を奨学金で賄ってるし、生活費もそれまでの貯金やらバイトやらで稼いでなんとかしていて、援助は受けていない。それほど上京に反対された。大学に通うことすら反対された。しかも現在進行形で。家を出てから連絡を取っていないので話すのが怖いというのもある。
 かなり気鬱になりながら、波はダメもとで知っている1人暮らしの友人宅を回ることにした。さすがに実家組には頼み辛いのと、地元じゃない分、家を知っている子が殆どいないこと、加えて毎日バイトバイトで大学内での交友関係をさほど広げられなかったことで、今、回れるのは3軒だった。後は訪ねた友達からツテを広げてくしかない。携帯がないってこんなにも不便なんだ。イライラとしながら波は出来るだけ急いだ。早くしないと日が暮れてしまう。焦りは募るばかりだった。