Home Sweet Home 14


 ほうほうの体でリビングに行くと、机の上にはホテル並にきちんとした朝食が並んでいた。驚いて島を探すと例の書斎で雑誌を読んでいて、波に背を見せたまま声だけかけてきた。
「いちいち僕に断らなくても、勝手に食べ下さって結構ですから」
 丁寧なんだか乱暴なんだかわからない物言いだ。一体島は一日中不機嫌なのがデフォルトなのだろうか。いやきっと、過去のトラウマね。波は疑問に思いつつもさっぱりと決め付けて、別のことを尋ねた。
「先生、これ全部、わざわざ作って下さったんですか?」
「いいえ」
 その次の言葉を待ったが、なにも出てこない。波は素早く朝食の皿に触れてみる。
「先生は朝ご飯召し上がったんですか?」
「ええ」
「だったら、これ、御自分とは別に用意して下さったってことですよね? 随分温かいですもん」
「……僕は作ってません」
「先生毎朝こんなに召し上がるんですか」
「……適当に用意してもらったので」
 ちぐはぐにしか答えない島に焦れて、波はつかつかと島の方へと寄った。その音に島は肩をびくんと奮わせた。別に取ってくったりしないわよ、こんな美味しそうな朝食があるのに! 波が厚かましくもそう思って待ってると、島はそろり振り向く。視線が動揺しているようだった。波はなんだか調子が崩れるなあと思ったが、それでも真顔で言った。
「本当にありがとうございます。御馳走になります」
 波がぺこんとお辞儀すると、島はすっといつもの仏頂面になってぺらぺらと雑誌のページをめくり始めた。波の相手なんてしないとでも言っているのだろうか。ろくに読んでもいなそうなのに視線も合わせないで「食べたら早く身の振り方考えて下さいね」と意地悪いことだけ言う。波はちょっと考えた。全く、顔のいい男というのはそれだけで女からありがたがられると思ってるのだろうか。――いや。せっかくの朝食が冷めてしまうし、実際そうしなくてはならないのだ、この件は深く考えないことにしよう。
 朝からこんなにお腹いっぱい食べたのは久しぶりだった。苦学生として自炊は必須だったが、こんな豪華な食事は出来ない。久しぶりに朝食で満足したと思った。お金持ちの朝食はやっぱりこれくらいして当たり前なのかしらね。これだけ几帳面でないと大学の先生なんて勤まらないのかもしれない。手も口も休む間もなく動かす。
 綺麗な部屋で誰かに用意してもらった食事をゆっくり食べられるなんて、まるで旅行に来ているみたいだった。波は気持ちよくぱくぱくと平らげ、束の間の幸せに浸った。食べ終えてからもう少し遠慮すれば良かったかなと恥ずかしくなるほど、綺麗に食べてしまった。でも考えてみれば昨晩はなにも食べていなかったし、あれだけのショックを受けながらこれだけ食べられたなら頑張れる証拠なんだからと勝手に思い直してみる。だって頑張らなくちゃいけないんだもの、あたし。頑張らないと――
 そうだ、頑張らないとなんだったっけ。ああ――
 優雅なひと時の朝食とは正反対の、焼け焦げた現実を思うと波は憂鬱にならざるをえなかった