Home Sweet Home 124


 イライラとする頭を何度も俯けながら、波は先程までの会話を思い返さずにはいられなかった。
 王子と話したことで、なんだか自分が本当に納得いっていないような気がしてならないのだ。
 自分では理解して、諦めて、困惑しつつも、なんとか次のステップに進むべく事態を進展させたつもりだった。たとえそれが滅茶苦茶なやり方だったとしても、いまさら元に戻せる力はなくて、だからまさか可能性の話をされてこんなに動揺するなんて思っても見なかった。
 覆してやりたいと願っている――
 違う、あたしは、ただ、自分の価値のなさを再確認して、踏ん切りをつけるつもりだった!
 波はそう結論づけて、王子の言葉を打ち消そうと努力した。
 人からもう二度と期待しているなんて言われないようにするため、もっと本腰を入れて新しい家を探すべく、奔走することにした。
 だから波は、あの日、全てを失った日、初めて島の家に行くことになった日のように、大学へと足を向けた。


 島とは顔をあわせたくなくて、ずっと避けていた。玄関から部屋に直行して、ほとんど出なければいい。それを崩す時はすなわち、おのれがだらしのない人間ではない証明として、すべての準備が整った時である。
 波がリビングで待っていると、どこかから現れた島が扉を開きかけて――すっと、逃げるように出ていこうとした。波は眉間をくっと寄せて、その後ろ背に声をかけた。
「家が見つかりました」
 顔を背けたままで島は――小さく言う。
「そうですか」
 どこかほっとしたように聞こえて、握りこぶしに力が入る。
「安心してください、今回は学校を通して見つけたんで、ちゃんとしてますから。もう先生に迷惑かけたりなんかしません」
 今度の家は、先の教訓を活かし、保険や大家の人柄についてはきっちりと調べたし、賃貸や保証人も大学を通してのものである分、以前より格段に良くなっているはずである。波には自信があった。
 だがその声は笑ってるかのように震えてる。いや、ほとんど笑い出したい気持ちだった。なんだか感情が勝手に暴走してるようだ。心臓が駆けている。
 波の報告を聞いた島はその場でくるりと向き直ると、ただ、腕を組み、床を見た。波は物でも投げつけてやろうかと思うほど気持ちが抑えられなくて、まくし立てるように言った。
「引っ越しは、先生のご都合のよろしい日にあわせます。たいした荷物はありませんし全部自分でなんとかできますから。いつがよろしいですか? 月末の土日はいかがですか」
「……いや」
「じゃあ夜は? それとも早朝?」
「都合が悪い」
「ではいつなら」
「自分で決めてください。僕を巻き込むな」
 ぐさり、と。心臓を刃物で深く抉られるとは、このような感覚なのだろう。苦いものが口に広がって、ますます笑いたくなるように歪む。

(そうだよね)

 先生にとっては、迷惑でしかないって、わかってたはずだ。

(いいじゃん、あたしは、先生の重荷になりたくないんだし)

「わかりました」
 ぐっと押さえても、脂汗が浮かぶ。
 波もどこへ視線を落としていいのかわからないまま、ひくりとする頬が乾くのを、諦めた。
「わかりました、もう勝手に――」
 島は突如として、どうでもいいというように手で波を制すと、ようやっと波を見て冷たく笑う。
「新しい出発への祝いに、どこか食事でも行きますか」
「――」
「最後だ」