Home Sweet Home 122


 しばらくの間、どっちつかずの雰囲気の間があいた。
『……波。手近なところから当たろうとするのは方法として間違ってないけど、だからって仮にも友達の彼氏つかまえてそれはないでしょ。そもそも、急にそんなこと言われたってこころの準備が……そういう3Pは経験が――』
「ぶち殺すわよ! こっちは真剣に聞いてんのに!」
『真剣!? それじゃますます答えらんないっていうか、俺、いくら親友でも彼女に疑われるようなことしたくないんだけど』
 探り探りの会話に腹が立った波は、ずばりと言い放った。
「ばっかじゃないの。真剣ってそういう意味じゃないわよ! 例えばってことで聞いてるんじゃない。誰があんなみたいな男を恋人にしたがるもんですか、そんなのあんたの彼女だけに決まってるでしょっ」
『……随分はっきりと』
「わかってんでしょ! さっさと答えなさいよ」
 イライラとする波の口調の底に、なにかを感じ取ったのか、それまでふざけ調子だった王子の声が、ふっと重くなった。
『人に物を尋ねる態度じゃないな』
 ぐっと、波は気勢をのみこむ。
「……だってそっちがふざけてるから」
『言い訳するなよ。オレは慈善家じゃない、頼むんなら筋を通せば』
「……あたって悪かった。頼むから、真面目に答えてくれない」
 妙なところで礼儀にうるさいというか――まあ確かに少々波の態度が良くなかったのは否めなかった。少しだけ反省して言えば、王子も案外素直である。
『わかった。先ず最初に聞いとくけど、それをオレに聞いて、なにが知りたいわけ』
「別に。あたしは――自分の価値を知りたいだけ」
『どうして俺? 先に尋ねるべき友達がいんのに?』
「あたしは今、女の子の意見なんて知りたくないの。男の目線じゃなきゃわからないことを知りたい。それにあんたなら好きな女以外のことなんて、斟酌なしにか回答しないでしょ」
 口にしてみて、波は納得する。そうだ、相手は男で、しかも容赦のない人間だ。だからあたしは知りたい。あたしの価値を。あたしの女としての位置を。
「もっかい聞く。あたしは、女としての価値はない? 余計な情報抜きにして、あたしのこと、抱きたいとか、思える? それとも、ヤり逃げでいい程度? 前にあんた、あたしじゃ勃たないって言ったけど、それは客観的な意見でもそうなの」
 波がすらすらと言ってのけた言葉は確かに、他の誰にでも聞けるような内容ではなかった。適当なところに座って、荒々しく足を組んでいる波と違い、きっと電話の向こうで王子は冷静に、器用に片眉をあげて、その美しいとさえ言える面立ちを、冷たく歪めてることだろう。どんな情け容赦ない返答がくるかと待ち構えていた相手だったが、言葉は波を拒絶しつつも、しかし声音は思いの外優しかった。
『波って、案外自分に自信がないんだ』
「――答えになってない」
『男と女は抱きたいか抱きたくないかで価値が決まるわけじゃない』
「そんなの建前でしょ。じゃああんた、誰に対しても等しく同じ価値観を抱いてるわけ。それが悪いことだって言ってるんじゃなくて、別に恋人じゃなくたって欲情くらいするってはなし。でも嫌いな女だったらさすがにそれもないんじゃない」
『あのさあ。確かにヤりたいヤりたくないには恋愛感情と連動してない生理的なものもあって、男は女より切り離して考えることができるのかもしれない。ただオレが言いたいのは、ヤりたいから好きなんじゃなくて、好きだからヤりたいの間違いじゃないの』
「……」
『その前に波、忘れてないか』
 なにを?