Home Sweet Home 12


 もしかして、彼女…?

 手にしていた写真は紛れもなく女性のワンショットだった。けれど島の態度が解せない。どう見ても憂いのある吐息、耐えられずに仕舞った写真立てといった風情だ。もしかして――波は直感的に悟った。もしかして先生の、悲しい別れ方をしたか――あるいは亡くなったとか――そんな相手じゃ…? これなら島のその見た目と冷たさとに見事にマッチする。波は夢想した。ベッドに横たわる彼女。病に臥せっているようには見えないくらい艶々とした黒髪が顔のまわりに広がり、頬は白く美しいが精気がない。彼女の手を握る島、眼鏡はかけておらず誰にでもまだ優しい表情をしてる。「ありがとう…」静かに呟いて、息を引き取る彼女。笑顔は急速に冷えていく。名前を呼ぶ島、帰って来てくれ。けれど彼女はうっすらと微笑んだままぴくりともしない。手を握ったままうなだれる。僕は絶対、誰とも結婚しない。交際もしない。あなた以外の女とは近づきもしない――

「なにしているんです」

 突然目の前に当の島の顔が現れて、波は息が詰まった。
「っ――う、あ」
 心臓が跳ね上がった。なにせプライベートどころか存在自体が謎の島の家で、誰も知らない秘密をかぎつけてしまったのである。アンドロイドに彼女がいただなんて。誤魔化すように笑うしかなかった。「バスルームを探していて」
「バスルームは廊下の左側です」
 島は無表情に案内するとそのドアを開け、波が入るのを待つように立った。波はじっと顔色を窺ったが島の表情は全くなく、動じた様子もなかった。その姿がなんだか逆に抑えきれない気持ちにさせた。自分が本当にここにいて良かったのだろうかという不安とも相混じって、いつもなら口にしはしないような類いの質問を、波は出していた。
「先生は…一人暮らしなんですよね」
 素早く波を一瞥した島の態度が、怖い。
「もしや、どなたかと生活されたりしてたのでは……」
 …だが島は頑なだった。
「人のプライベートが知りたくてここに来たんですか」
「そんなつもりは」
「では余計な詮索はご無用です」
「詮索だなんて。ただちょっと心配になって」
「心配とはどういう意味ですか」
「…今日はお1人なんですよね」
「今あなたといるでしょう」
「そうじゃなくて…クリスマスなのに」
「クリスマスは25日です」
「23日は世間ではもうクリスマスみたいなものです」
「僕1人じゃいけませんか」
「そういうわけじゃ…島先生くらいの男性なら、誰かと過ごされるのかなと…」
「そうであったならば学校なんかにいませんし、あなたをこんなところに連れてきません」
 ピシャリとやり込められる。
 やっぱりいきなり教えてくれるわけないか。波が気まずそうにもじもじしてると、島は眼鏡を上げながら嫌なことを言う。
「そう言うあなただって、今日独りではないのですか」
「あたしは――」
「あなたのことは僕には関係ありませんし、あなたも僕のことには関係ないでしょう」
 島の目が鋭く細まり、波は身をすくめる。
 多分先生は過去になにかあったんだ。恐らくさっきの写真の女性のことで心に深い傷を負ったに違いあるまい。しかもこの顔で超のつく金持ちなら、その後女性関係で辛酸をなめさせられたってことも有り得る。もしかして先生がこんなに愛想がないのはそのせいかも。容易に想像できる島の過去に波は同情し、可哀相な先生、と小さく呟いた。同情すると少しだけ胸がすくのは卑しい証拠と知りつつ。
 波がどうであれ、対する島の態度は非常にキツかった。
「言っておきますけど」
 島は冷たい目をして波を見おろす。
「今晩だけですから。妙なことは考えず、人の家を探ったりしないで、さっさと寝てさっさと出て行ってください」
 目の前で思い切りドアを閉められて、さすがの波も、うなだれた。