Home Sweet Home 117


 言葉が1つ1つ舞い落ちていく。ゆらゆらと舞うそれは、でも、全てひとところに落ちてくのだ。
 好きな人に出会えたこと。好きになれたこと。先ずその気持ちを大切にしてこの恋を続けろという友人の、まるでその先にある未来を知っているかのような確信めいた考えを聞きながら、波は真実をきちんと話す大切さも実感した。何もかも曖昧で誤魔化して話し続けても、きっとこういう気持ちは得られなかったろう。何もかも告げられなくても、濁すよりは自分が責任をとれる範囲で真実を告げる、その重みを、実感する。
 大切な人たちを、どちらか優先ではなく、それぞれに大切にする方法を、模索して。
「あたしさ」
「ん?」
 思い返すと、切ない気持ちになった。
「先生に助けてもらったんだ。親にも頼めないような、びっくりするような、とにかく最悪のことがいっぱい起きた時。たまたまだったんだけど、先生に言っちゃって。それを先生、学校に知れたら、クビがヤバイかも、ってくらいのことして、助けてくれた。それがきっかけ。ね、ちょっと理由としちゃゲンキンだと思わない」
「波……」
「いまさらだけどさ、あんたにだけは、誤魔化しはいけないと思って。言える限り言う。でも先生の立場もあるから、秘密も残す。そういうのって、あり?」
「ありじゃない? 波らしい」
「もっと詳しく、聞きたい? あたし、加減がわかんない」
「波が話してもいいって思う程度でいいよ。わたしが聞きたいことは聞くし、でも言えないって思ったなら、そう言ってくれればいい」
「それでも、友達って、言えるかな」
「波、わたしは――」
「うん、ごめん。あたし、とにかく今は全部自信なくしちゃって。あんたに頼りたいって思ってはいるんだけど、どこからどう話していいのか、おまけに、先生のことも考えなくちゃって混乱しちゃってて」
「そっか」
 2人で一緒に思いを馳せた。
「そっか」
 もう夜も更けて遅い。バイトの疲れがじんわり体に落ちて、喋り口調も控えめになる。
「まさか先生がそこまで親身になってくれるって思わなくてさ。なんだかだ言いながら、なあんか気づいたら、先生のことばっか考えてた」
「好きになるきっかけに、いいも悪いもないと思うけどな。それだけ親身になってくれる人柄だってことでしょ」
「あたし、どうしたらいい?」
「どうしたらって?」
「また先生に会ったら、また感情爆発させて言いたい放題言っちゃいそう。先生のこと困らせたいわけじゃないのに、先生はあたしが腹立つようなことばっか言うし、あたしもいちいち反応するつもりないけど、やっぱ気になる相手だからなのかね、結局言い返したり反発したり」
「そしたら、言いたいだけ言えばいいんだよ。少しくらい当たって砕けろの精神でさ。もっとばーんとぶち当たって言いたいこと言っちゃえば」
「できないよ。なにそれ、告れって言ってんの?」
「告白は――波に任せるけど。結果がどっちに転んだって、波が今黙って苦しんで諦めるより、ずっといいと思うから」
「簡単に言ってくれるよ……」
「へへ。でも波が言いたくなるってことは、相手も少しは受け止める覚悟があるってことでしょ」
「そういうもん――?」
「先生は大人で、先生なんだから、間違ってたらちゃんと導いてもらえばいい。それでいいんだよ」
「いいのかね」
「いいよ。だいたいさ、波を苦しめてるのは先生のせいなんだから」
「そうかな」
「そうだよ」
「そっか」
「うん」
 頭の中の波は知っている。それは我がまま勝手で一方的な言い分だと。あまりに無謀であまりに大胆な恋は、実るはずもない徒花を咲かせて、愚かで、もどかしいと。
 だけどきっと、親友もそれをわかった上で言ってくれている。わかった上で、こころの逃げ場を作ってくれている。
「ねえ、先生に助けてもらってから、今でも話したりする機会あるの?」
「――まあ」
「これからも、そういう機会って続く?」
「――それは、わかんない」
 もう島の家で暮らす理由もなくなる。波と島の時間は、これで終わりにしなければならない。2人をつないでいた絆は綺麗に断ち切ってあげないと、島が可哀想だろう。
「本当はもう、会っちゃいけないのかも」
「――」
「…でも、いいの。色々ありがと」
「ごめんね、いつもなにも気づいてあげられない」
「ううん」
「波、わたし、ちゃんと波の友達として、役に立ててる?」
「あんたのお陰で、ちゃんといっぱい救われてるよ」
「もっと本当のこと言ってよ」
「本当だよ」
「波……わたし、なんか泣きたくなってきた」
「あんたが泣いてどうすんのよ……」
「波ぃ……」
 自分にくっついて先に泣き出した友人をみて、波は胸が熱かった。熱くて、熱くて、失恋はきっと、彼女が癒してくれるだろうと、自分の未来を想像した。