Home Sweet Home 116


「は?」
「え?」
「ちょっと待って、あんたどっちが先生だと思ってる」
「……? 波『が』先生じゃなくて?」
「……」
「あれっ」
「……」
「家庭教師のバイトの話じゃなかったんだ……ってことは」
 今ようやっと理解しました、という赤くなったり青くなったりの表情を見て、波は先よりもザッと血の気が落ちたような気がした。
「――」
「――」
 急にお互い無言になって、なんだかいたたまれないような空気に陥る。
 ――いや、もう墓穴を掘った後なのだ、今更どうこう言っても遅い。
 友人が急にあわあわとしだしたのを見て、波ははぁとひとつ、盛大に溜め息した。今度こそ覚悟を決めるときだった。
「わかった。正確に言う。あたし『が』先生『を』好きになったの。家庭教師もアルバイトも関係ない」
「それって……まさか、うちの学校の先生だったりする?」
「――ん」
「わたしも知ってる人?」
「――ん」
「――そう、だったん、だ……」
 ぽつり、と返答する友人の頬が真っ赤だ。それを見ていると、なんだか自分の葛藤が馬鹿馬鹿しいように思えてくる。
 無言で飲み物をいじり回していた時間が過ぎて、急に友人が口を開いた。
「ねえ、1つ聞いてもいい?」
「ん」
 波もぼんやり返答する。
「どうして、その先生のこと好きになったの?」
「……」
 ちらっと見ると、親友は慌てたように手を振った。
「あ! 別に、変な詮索するつもりじゃないよ。先生との接点なんてどうでもよくって……そりゃ気になるけど、本当に気にしてるのはそういうことじゃなくって、だってさ、波ってすごくガード堅いじゃん。滅多に自分から好きにならなそうなのに。わたしが言いたいのはね、波がやっと好きな人見つけたのを、先生ってだけで諦めちゃって、自分ばっかり責めて、違うんじゃないかなって。確かに、相手が先生って簡単じゃないよ。それは間違いない。けど、せっかく好きになった気持ちを、簡単に捨てたり、否定したりって、いいのかな。理由があって波の気持ちが動いてるんだから、それは大事にしなきゃいけないんじゃないかな。同じ苦しむならさ、諦めるんじゃなくて、好きで苦しむ方が、いいんじゃない」
 今度は真っ直ぐに、彼女の顔を見つめた。彼女の視線も言葉も、真っ直ぐ過ぎて、切なかった。
「誰だって、恋したらしたなりの苦しさがあって、叶わないってなればきっと、叶った人なんかに何がわかるって思うよね。でも、そこで比較しようとしたって無意味だと思う。波の苦しさわかってあげるなんておこがましいこと言っちゃいけないだろうけど、それでもわかってあげたいとは思うし、だから波なら平気だなんて軽々しいことも絶対言わない。それでも、好きになれたのって先ずそこが奇跡じゃない、って言いたいの。波のそばにそういう人が現れたってことだもん。だから波の好きになった気持ち、大切にして、もっと前向きに抱えながら、ゆっくり考えて欲しい。波が相手を見誤るとは思えないし、きっとその先生はすごく波にとって大切なもの持ってて、波のこと大切に扱ってくれてるんじゃないかなあ。そういう相手を、簡単に捨てないで欲しい」