Home Sweet Home 115


 浮かんだ島の顔はすぐに滲み、霧の奥へと遠ざかる。
 そう、頭の中の島のように、正直、彼がなにを考えなにを思って波に接してるのかわからない。
 ひどくわかりにくい人だってことはわかったけれど、それだけで島の本音すべて読めるようになるほど、簡単でもないし、単純な人でもない。
「……気持ちが、わからない」
 零れ落ちる言葉は溜め息に近かったが、親友の耳には届いたようだ。
「相手の気持ち?」
 背中を押すように言われて、自然に波も返す。
「相手も、自分も。あたしも、どうにもならないってわかってるのに、好きって諦めきれないし、そばにいたいとか思ってる。でも、そんなあたしのこと、優しくするくせに、どこかで敬遠してる。あたしが困ってれば手を差し伸べてくれて、ふらつくと、さっと逃げて。あたしのことどうしたいのか、わかんないよ」
 文句がつらつらと出た。言いたいことだけ言えと励まされたことが、思った以上に気を楽にしたらしい。波はつらつらと呟く。

「なに考えてるのか、知りたい」
「知っても、しょうがないんだろうけどね」
「自分の気持ちに、整理つけたいのかな」
「そしたら、諦めて次に進めるかな……」

 とそこで、それまで小さく相槌を売っていた親友の、やんわりとしたが訂正が入った。
「諦めるためじゃなくて、努力するため、にはどうしてもなれないの?」
 波は困ったように友人を見た。彼女は自分とは違った意味であまりにも努力家すぎる。
「それは無理だよ。相手が悪すぎる……」
「先生だから?」
「は?」
「先生と生徒ってそんなにダメ?」
 波はぎょっとして――親友の顔がほんのり赤くなっていることに気づいた。
「え、なんか変なこと言った?」
「なん――」
 なんでそれを、と言いかけて、そういえば自分で口を滑らせたようなきがする、と波は青くなった。だが相手の口は止まらない。
「でもさ、別にそれがそんなに大きな障害になるとも思えないし。禁止してるところもあるかもしれないけど、好き合っちゃったものはしょうがないでしょ。人の気持ちまでは止められないよ。波が公私混同しなければいいだけで――」
「ちょっと、ちょっと待ってよ、なに言ってるの――」
「もちろん贔屓とか馴れ合いとか絶対ダメだけど、ストイックな波なら大丈夫だし。ていうか、ストイックすぎる波には丁度いいくらいだよ。だいたい最初から波が諦めてるのがわかんない。相手も波のこと好き、っていう可能性を頭から否定してるもん。相手だって波のこと好きで、でも波がそうやって頑なだから腹を立てて意地悪してるのかもしれないし。だったら素直に気持ちを伝えて、さっさと両思いになって、その上で一緒に今後を考えてく方が建設的じゃん」
 あまりにも大胆な言い草に、先生を好きになったことはこの際認めざるを得ないと諦めた。それにしても驚いて、泡を喰うような発言を止めにかかった。
「待って、わかった。先生と生徒っていうのは認めるよ。けど、あんたがそう簡単に言うほどの垣根じゃないよ? 世の中にそういう恋愛がどれくらいあるのか知らないけど、例えば付き合うとかって、それ自体がもう公私混同じゃない」
 すると親友は案外恋愛に鷹揚なのか、波が越せない垣根を簡単にのり越えて、興奮したようにまくし立てて反論した。
「そんなことないよ。勉強する時はする、ってケジメだけしっかりしてればいいだけでしょ? むしろモチベーションあがって、成績良くなるんじゃない。そしたら親だって万々歳だし、2人も幸せで、卒業しちゃえばもう自由でしょ」
「あのねえ……あたしは別に、成績のために先生と付き合いたいわけじゃないし、だいたい事が学校に知れたら、どんな誤解を受けるか――」
「学校なんて関係ないよ。そこまで干渉される筋合いはない! 恋愛は自由だよっ」
「随分前衛的なんだね…意外だった……うーん。いや、さすがにあたしも、そこまできっぱりと判断がつけられないけど……卒業したらそりゃあ、自由かもしれないけど……だったらあと3年我慢するとかした方が……」
「3年!? じゃあ相手の子は高1なの!?」