Home Sweet Home 114


「――」
 波の瞳をじっと見てくる彼女の顔は、ただ優しいだけじゃなく、どこか安堵できる母性のような雰囲気もあった。彼氏ができてから、彼女の雰囲気は随分柔らかく女の子らしくなったと思う。きっと無意識にそうなっているのだろう。
 今ほどそれを美しく感じたことはない。そっか。この子はあたしが唯一、学校で一番一緒にいたいって思った子なんだ。他の誰ともつるまなくても平気。ずっとひとりだっていい。そう思っても、彼女とは繋がっていたいとどこかで考えている。だって彼女だけは、友達付き合いのための付き合いを求めず、友達のあり方を考えさせてくれた。波の異質と言われるような部分もくるみこむように、波の馬鹿馬鹿しいプライドなど飛び越えたところで、色んなこと認めてくれた。その自然さがすっと波の胸にしみこんだから、当たり前のように一緒にいれるようになれたというのに。それが無意識すぎて、普通の友達付き合いをしなければ友達でいられないような枠の中で彼女を量ってしまった、それは波の不覚だ。
「ねえねえ、もしかしてその相手ってさあ、波の好きな人?」
「……」
 我知らず答えを顔に出していたらしい。わかったぞ、というように、大きく頷かれた。
「波ってさあ、カッコイイ人とか、モテそうな人、嫌って言うでしょ。でもね、そんな感じの人が強がりだったり、孤独を感じさせると、波ったら優しいんだよ。気づいてた?」
「そんなこと――」
「波は無駄にぞろぞろ大勢でいるの好きじゃないから、っていうのもあるのかもね。顔立ちがいいことで大勢の人の中心に囲われようとするんじゃなくて、そういうの関係なく自分の好きなように振舞ってる人に、独立してる! って仲間意識が芽生えるんじゃない。厳しいことばっか言うけど、ちゃんと人の気持ちとか見抜いて、優しいんだなって思うよ」
「……それ、誰か特定の人のこと指して言ってる?」
「へへ。そうだよ」
 急激な羞恥に見舞われて波はすぐに否定した。
「あたしはあんたの王子様のことなんて、これっぽっちも好きじゃないし、同情したりしてないし、優しくしてやろうなんて思ってないし、あんたには悪いけどむしろ死ね! とか思ってるし!」
「波は意地っ張りだから」
「違うわよ!」
「案外2人とも似てるとこ多いんだよ」
「あんな変態と一緒にしないで!」
「あはは」
 ふてくされたのに、親友は楽しそうに笑ってる。どこか温かい目で、波に問う。
「きっと波の好きなその人も、波にもっと似てて、でも波みたいなしっかりした人の心をつかめるくらい、大人なんだろうね。似てるって大事だよね。共通する部分が多いってことだから。相手のこといっぱいわかってあげられるし、同じ感覚持てるってことでしょ? わたし、相手の気持ちもっとわかってあげられたらいいなって良く思う。理解できなかったり、無神経なこと知らずにしてるのかなって思うと悲しいもん。でも波ならきっと、その人のことわかってあげられるよ。そんな気がする。そんなに心配しないで、案外体当たりしてみてもいいのかもよ」
「体当たりって……」
「悩んでても物事って進まないし。頭で考えるより先に好きなように行動してみてもいいんじゃない」
「……」
(考えるより先に、か)
 だがいったいどうやって何をしてみるべきなのか。
 1日逃げても、1日遅れでやってくる時に、どうやって向きあうべきか、わからない。
 …と、そう考えていることがもう、行動を遅らせてるのかもしれない。
「ほらまたそうやって自分ひとりで抱え込む。思ったら口にしてみる。はい!」
 思ってるそばから図星をさされて波はぼやく。
「けどあたし、あんたみたいに――即行動なんてできないし……」
「とりあえず、相手のことはこの際無視して、波の気持ちを言ってごらんよ」
「……」
「結果なんてどうでもいいから、波の思ってることだけ」
(考えるより、先に)
 目を閉じる。
 意識を空にして。
 と、いつもの仏頂面する島の顔が自然に頭に浮かんだ。

「――先生、怒ってるのかな……」