Home Sweet Home 113


 波と異なり、もともと感情の起伏がはっきりしてめまぐるしい友人だったが、それでもいつにない複雑さと重々しさをはらんでるのが、わかった。
「波はわたしのこと何だと思ってるの? わたし、言ったよね。波の助けになりたいって。でももし頼り合いたいって思ってるがわたしだけだっていうなら、はっきりそう言って。わたしなんて何の役にも立たないって思ってるなら、そんな風に適当に感謝なんかしないで。誤魔化されるくらいなら、役立たずって言われる方がいい。だってそしたら、波のために出来る他のこと、考えられる。何もわかってないのに役に立ったつもりにだけさせられて、邪魔してるなんてそんなの嫌だ」
 違うそれは――言い訳を考え始めた波の口がふっと引き締まって、自分が言い訳ばかりで有りのままを告げられないでいるのだとひどく愕然とした。語りたいと願いつつ『全部話せない』とフィルターをかけ、友達を傷つけてまで、臆病に怯えてる。『誰にもいわないでね』と告げたらいいだけなんだろう。自分がこころの底から思ってること隠さず話せばすっきりするだろう。それでも、波は告げられないでいる。どうして。あたしは何かを口にする前に考えないと言葉が出てこないのだ。心の奥底で洗いざらいぶちまけたい気持ちになっていた感情の逃げ場がない。言いたい。相談したい。それで楽になるのなら。でも、とまた何かが堰き止める。先生の家に居候して、好きになったなんて、言っていいものか。そんなの全部の範疇を超えてる。この明かすことのできない事実がある限り――明かせないよね? いくら親友の口が堅くても、こんなこと――あたしは口にできない。友達を裏切りたくないのに、先生を裏切ることもしたくない。そうだこれ以上先生に迷惑をかけたくない。でもそれって、信用してないってことにならないか。友達より好きな人を優先してるってことに。そんなのひどい女じゃない。先に約束してたのに、後から彼氏に誘われて、優先順位を入れ替えるような――ああ、わからない。1つわかったと思った次の瞬間、また1つわからなくなる。
 頭がぐちゃぐちゃの状態の中で、先生の家にいるっていうことは、そういうことなんだと波は急に結論づけた。
 あたしの感情は、庇護を受けられる大きな庇の中でのことなんだ。
 庇を貸して母屋を取られる――
 あたしは我がままで自分勝手な、図々しい甘ったれ。
「……ごめんね。そんなつもりなかった。あたし、何を話していいかわからない。実は甘え方がよく、わかってないみたい。そのくせ、本当は人に頼ってばかりらしくて。だって――あたし、甘ったれって言われたし。あなたは僕に甘えてるって言われたし。でも、『間違っている』んだって。あたし、『間違ってる』って。好きな人にさえあたしはそう思われてる…」
「波。聞いて」
 強く遮られて、波の怯えたように口は止まった。でももう彼女は怒ってなくて、ただ不安気に視線を揺らした波に優しく丁寧に告げただけだった。
「よく聞いて。悩みを打ち明けるって、全部説明することじゃないんじゃない。これはわたしの考えだけど。だから聞いて波。あのね、話せないことも、話したくないことも、あるのはわかってる。それを言わないことを責めてるんじゃないの。波がせっかくここへ来たのに、わたしに何かできることはないの? 話したい部分だけ話してくれたっていいんだよ。わたしがしたいのは、波のことを根堀葉堀聞くことじゃない。波の心を少しでも軽くすること」
「――……」
「さっきも言ったじゃん。波は1人で全部抱え込みすぎなんだよ。波だってそう思ったんでしょ。でも世の中って分業するためにいっぱい人がいるんじゃないかなあって思わない?」
 どこかで聞いたことがあると思ったら、かつて自分が島に吐いたセリフに似ていた。同じことを人に言い、自分も同じことを言われてる。それってなんだ。
 深い溜息が自然にでた。
「あたしも結局わかってなかったってことかな……。それ――人に言ったことある」
 情けない気持ちでつぶやいたのに、友人は薄く笑った。
「その人と波は似てるんじゃない」