Home Sweet Home 11


 ベッドにはさっき言っていたパジャマがもう置かれている。ふと自分が薄汚れている気がして、急に恥ずかしくなった。
「申し訳ないついでに、お風呂…お借りしても……」
 ぴくり、として島はこめかみを押さえている。マズイことを言ったつもりはなかったが。
「あ、スーパー銭湯行きますよ。はい」
 軽い唸り声までが聞こえて思わず訂正してた。友達の前でこんなに縮こまった姿を見せたことはない。いつだって堂々としてる自分だったはずなのに、妙にびくついている。変に思いながらも波が小さくなって御宣託を待っていると、お告げが下ったのか島は右手の指で一方向を指し示した。
「あのドアがバスルームに通じてます」
 そんなに嫌ならあたし学校でも平気でしたよ…波が再びすいませんと言うと、島はドアをしめてさっさと行ってしまった。
 1人になると、溜め息が出たと同時に急にもの寂しくなった。特にこんな広くて他人の温度を感じられないような空間だとなおさらだ。ベッドの脇にどさりと荷物を置いたが、しんとした部屋には変わりなかった。
 なんだか今日一日で生活が一変し過ぎで、疲れた頭ではなにも考えられそうにない。やはり呪われた日なのか。とりあえず今日は先生が助けてくれた(多分)けど、明日からは自分でなんとかしなきゃだし…。急に家族のことを思い出して、波は悲しい気分になった。
 波は3人姉妹で、祖父祖母も一緒に暮らしていたこともあるので、1人で上京するまではずっと賑やかな生活だった。
 疎ましいとさえ思って自ら切り捨てた生活だったが、初めて1人になった時はちょっとだけホームシックになったりもしてる。
 さすがにもう慣れていたけれど、こんな状況のせいか今はまた人恋しくて、誰でもいいから慰めて欲しい気持ちになった。
(まあ、先生に期待するのはよそう)
 どういう風の吹き回しか自分を助けてはくれたけれど、あんなにつんけんと人を部屋に押し込めて、いい迷惑そうだし。あたしを連れてくるのが嫌なら、始めからホテルでもなんでも宿泊施設を用意してくれれば良かったのだ。ここに呼んだのならば少しは愛想ってものを使えばお互い気楽なのにさ。波はやれやれと肩をすくめると、島がどういう神経構造を持ってるのか一度見てみたいと考えた。以前授業の出席のことで島と揉めたことがあるのだが、その時も問答のように質問を繰り返して、相手の真意を感情から図ろうとはしなかった人だ。
「…やめたやめた。今日一日歩き回ってたし、もう限界。ご飯も食べてる余裕なかったし、早くお風呂入って寝よう」
 波は着替えを取ると、廊下へと出た。しかし。
「ああー」
 動揺していたせいか、風呂の場所がよくわからなくなって、廊下を無駄に往復した。あちこち部屋を開けて歩くのもどうかと思い、島はいないかとリビングに入ったが見当たらない。どうしようか――と、その奥にさっきまで仕切られていた所が開いて、書斎があることに気がついた。いわゆるDENである。島はそこにいた。
「しませんせぇ…」
 小さな声だったので気付かなかったらしい。こちらに背を向けそこでなにかじっと見ている、どうやらフォトフレームのようだ。写真には女性が写っているように見えた。波はもう一度声を掛けようかと迷ったが、そこで島が吐息をついてフレームを叩きつけるように引き出しにしまいこんだので、どぎまぎして物陰に隠れた。

 もしかして、彼女…?