Home Sweet Home 1



 骨の髄まで凍るような冷たい空気の中を、幸嶋波(こうじま なみ)はぐんぐんと進んでいた。色気のないカジュアルブーツでショッピング街の隅から隅まで歩いただろうか。体はすっかり冷えて疲れきっていたけれど、両手には戦利品の冬物やらなんやらの袋がガサガサとぶらさがっていて、今の気分なら、雪が降り出したとて気にならない。貧乏学生として当然現金主義の彼女にとって、ぽーんと気持ちよくお金を払う時ほどスカッとする瞬間はなかった。お陰で財布の中身は最低だけど。波は自慢気に手袋の手を揺らしながら駅へと向かった。
 クリスマスのイルミネーションは華やかで、街行く人々は虫の好かないカップルどもばかりでも、今なら一蹴できる。今日から冬期休暇。折角入ったバイト代を使い果たして自分へのご褒美を沢山買い込んだばかりだし、クリスマスのためだけに彼氏なんか作るより余程有意義に過ごしてる。わざわざ人混みの中を高いものを食べに行く必要なんて全然ないし、こういう日こそあたしは家で1人静かに過ごすから。そう思う度に靴音が高くなっていることに気付かないまま波は駅へと向かう。
 12月23日の夕方ともなればカップルはそろそろクリスマスディナーやお泊りのエリアへと流れ始める時間帯だった。それら全てを波は鼻で笑う。こっちは帰ったら温泉の元をたっぷり入れたお風呂で右手に持ってるシャンパンを飲んでやるさ。
 そうして我が家にある愛すべき品々を思い返してひとり幸せ気分に浸ることしばし。年末を待つように壊れ使い物にならなくなったもらい物の洗濯機はこの前新品に買い替えたし。ついでに電気ストーブも奮発したから、部屋の中でコートを着る生活ともようやっとおさらば。今日は思い切って買ったちょっと可愛いワンピースを着て、馬鹿っぽいコメディ映画を見ながら、冷蔵庫で待っているずっと食べたかった1切れ1200円もするケーキを堪能する最高の日を過ごすのだ。全てが満たされて、あったかい部屋で送る師走の一時。ああなんて幸福なんだろう。イブイブだからって騒ぐなんて、馬鹿らしい。他国の神様の誕生日の前々日が、どうして日本人の恋だの愛だのにつながるのよ、くだらない。
 く だ ら な い !
 空に吸い込まれていった波の想いは高く遠くに消えてく。
 言わずもがなであるが、現在波に彼氏はいない。好きな人もいない。ロンリーでサッドかと思われがちだが、そうじゃあない。くだらない恋愛遊戯はこっちから願い下げてるのだ。あたしは乙女じゃない。
 波が最後に彼氏と別れたのはもう3年も前のことであった。実を言えばその頃は決して今のように頑なだったわけではなかった。イベント事にも張り切ってたし、少女らしい夢を恋愛に抱いていたりもした。それがある時を境にクリスマスシーズンは呪われた日に変貌し、乙女心は霧散したのである。
 事は波の恋愛経験に端を発している。